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業務上腰痛の損害賠償③(労災の損害賠償)


業務上腰痛の損害賠償で紹介した安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の裁判例の詳細を紹介します。

おきぎんビジネスサービス事件(那覇地裁沖縄支部平成18年4月20日判決)

 重量物を持ち運ぶ業務に従事していた労働者が、腰椎椎間板症等の傷害を負った事案です。使用者に、安全配慮義務違反があるか?が問題になりました。

 裁判所が、厚労省のガイドラインについて、安全配慮義務の内容を考える際の基準となると述べている点が注目されます。

事案の概要

 被告A社は、現金等の精査・整理業務、現金等の輸送業務、特定先の集配金業務、文書等の集中発送業務等を目的とする株式会社である。

 被告A社は、B銀行の依頼により、そのコンピュータ入金処理、現金の精査・整理業務、文書等の集中発送業務等を主たる業務として行っていた。

 原告は、昭和62年9月1日、被告A社に雇用され、平成9年4月18日まで、同社の業務第一部の中部センターにおいて勤務していた。原告が中部センターで勤務していた期間中における仕事の内容は、おおむね、以下のとおりである。なお、中部センターには、所長、所長代理及び男性職員F3名並びに原告を含む女性職員5名が配置されていた。女性職員はローテーションにより仕事を交替して行っていた。

 (1)運送業者が集金してきた現金は、基本的に、中型ないし小型のカバンに入れられたものが、さらに大型のカバンに入れられた状態で、まとめて台車に載せられてリフトによって中部センターまで運ばれてくる。

 (2)リフトに載せられた大型のカバンは、原則として所長がチェックし、台車から床に降ろす。大型のカバンの重量は、平均で20キログラム程度、重いもので40キログラム程度であった。手が空いている場合には、この作業をFや女性職員らが手伝うこともあった。

 (3)床に置かれた大型のカバンから、中型ないし小型のカバンを取り出して作業台の上に置き、中の現金を取り出して確認する。中型ないし小型のカバンの重量は、平均で5キログラム程度、重いもので20キログラム程度であった。大型のカバンが重い場合には、これを床の上に置いたまま、中型ないし小型のカバンを取り出して作業台の上に置き、軽い場合には、大型のカバンごと作業台の上に載せて、作業台の上で中型ないし小型のカバンを取り出す方法で行われた。この作業は、職場の全員で行っていた。

 (4)取り出された現金は、当時2台あったマルチコンピュータに、順次、投入して、金種ごとに選別及び数量計算し、伝票との照合をする。この作業は、いずれも女性職員が行っていた。

 (5)選別された紙幣は、女性職員が、機械を使用して、100枚ごとに束ね、これをさらに10束ごとに束ねた上、台の上に並べる。所長又は所長代理は、これをチェックして、ジュラルミンケースに入れる。

 (6)選別された硬貨は、金種別に分けられたキャスター付きケースを硬貨処理機のそばまで移動させ、金種別に分けられたケースを持ち上げて、硬貨処理機に投入して50枚ごとに包装する。金種別ケースが重い場合には、かごに小分けした上で投入することもあった。かごの重さは20キログラムを超えることはなかった。この作業は女性職員も行っていた。

 なお、硬貨が金種別に分けられて集金されてきた場合は、(3)の作業後、直接、硬貨処理機に投入されて処理されていた。この場合に、大きなカバンを硬貨処理機で運ぶのは主に男性職員であり、女性職員は、時折、補助をするのみであった。このときのカバンの重さは、重いものでも20キログラム程度であり、重い場合には、上記と同様に、かごを使用していた。

 (7)包装された硬貨は、女性職員が10本ごとにゴムで束ねて、麻袋に収納する。また、釣り銭として要求された金額を準備し、これを所長又は所長代理が確認して専用袋に詰める。

 (8)上記オでジュラルミンケースに詰められた紙幣、上記で麻袋又は専用袋に詰められた硬貨を、所長又は所長代理が台車に積んで移動させ、運送業者に引き渡す。

 原告は、平成9年4月18日、文書管理センターに配置転換された。

 原告が文書管理センターで従事した仕事の内容は、おおむね、以下のとおりである。なお、原告は、Kが配属されるまで、左半身不全麻痺の障害をもつEと二人で、以下の仕事に従事していた。また、原告が勤務を始めた当初、梱包物の上げ下ろし用のリフト付きの台車(トピックリフター)が3台あり、そのうち1台は製本室に、残りの2台が原告及びEが使用できるように配備され、固定式の台車も文書管理センター全体で15台配備されていた。

 (1)以下の手順で、棚から消耗品等を集荷して段ボール箱に詰めて梱包し、2営業日後に各発送先に発送するために準備する。

 ①各発送先からの消耗品等の発注について荷造り明細表がコンピュータから出力されるので、手分けをして、それぞれ棚を回って、その指示どおりに、消耗品等を集荷する。

 ②それぞれが集荷した消耗品等を発送先ごとに床に並べる(床配列作業)。

 ③相手が集荷した消耗品等が荷造り明細表と合致しているかを互いにチェックする。

 ④それぞれが集荷した消耗品等を、発送先ごとに段ボール箱に梱包する。梱包作業の手順は、以下のとおりである。

 A集荷した消耗品等を、発送先ごとに段ボール箱に詰める(本件段ボール箱)。一つの発送先への段ボール箱が複数になることもあった。消耗品等を詰めた後の段ボール箱に隙間がある場合には、荷崩れをしないように、新聞紙などを詰めていた。

 B消耗品等を詰めた本件段ボール箱を、リフト付きの台車に載せ、自動梱包機の側へ移動させる。なお、以下の作業については、リフト付きの台車ではなく、固定式の台車を使用することもあった。

 cリフトによって本件段ボール箱を持ち上げて、横から押してずらして自動梱包機の梱包台の上へ載せる。固定式の台車を使用する場合には、作業者が持ち上げて梱包台の上に載せる。

 d自動梱包機によって本件段ボール箱に自動で帯掛けを行う。

 E梱包を終えた本件段ボール箱を自動梱包機から台車の上に戻す。

 F本件段ボール箱を台車から床の上に降ろす。

 ⑤上記④の作業がすべて終了すると、梱包済みの本件段ボール箱を台車に載せ、一時保管場所まで移動させて積み上げる。

 (2)上記(1)の業務の間に、運送業者が梱包済みの本件段ボール箱を引き取りに来るので、前日までに搬出口へ移動させて積み上げてあった当日発送分の本件段ボール箱を二人掛かりで、順次、コンベアに載せ、運送業者に引き渡す。この作業については、他の者が手伝うこともあったが、二人で行うことが多かった。

 (3)上記(1)の作業中又は作業終了後、翌日発送分の本件段ボールを台車に載せ、搬出口へ移動させて積み上げる。

 (4)上記(1)ないし(3)の作業終了後、印刷及び製本が終わっている伝票や帳票等を消耗品等の棚へ収納する。

 原告は、文書管理センターに配置転換後、まもなくして、腰を痛め、平成9年4月28日、腰痛のために針灸院を受診した。原告は、その後、再び腰を痛め、同年5月13日、病院を受診した。腰椎のレントゲン撮影を行ったが、ヘルニアではなく、腰筋筋膜炎と診断された。原告は、肩こりと腰痛のため、同年6月11日、整体院を受診した。原告は、同年7月7日、病院を受診し、4月ころに腰痛を生じ、1か月で治まったが、4日前から再び痛むようになったと訴えた。痛み止めや湿布薬により様子を見ることとなった。原告は、同年7月10日、病院を受診し、右半身がしびれると訴え、仕事がきつく、休みたいとして、診断書の作成を希望した。診察の結果、圧痛や痺れ感の訴えはあるが、腫脹や知覚、反射の異常はなく、レントゲン写真にも特に異常は見当たらず、アセスメントとして、「椎間板症または精神的な問題か」とされた上、鑑別診断としては、「頸椎椎間板ヘルニア」とされた。その上で、「腰痛症」により「通院加療が必要であり、重労働は困難と考え」る旨の診断書が出された。

 原告は、以下のとおり、被告A社への勤務を休職した。

 ①平成9年7月10日から同年8月6日まで、②同年12月12日から同月28日まで、③平成10年1月6日から同月末日まで

 原告は、平成10年4月15日から、被告A社への勤務を長期休職するに至った。

 那覇労働基準監督署は、平成10年3月25日、原告につき、平成9年4月23日の労災傷病を認定した。那覇労働基準監督署は、平成16年3月3日、原告につき、労災後遺障害として腰部痛、腰椎椎間板症、坐骨神経痛、腰椎椎間板ヘルニアを認め、9級の7の2の労災後遺障害認定を行った。

裁判所の判断

 原告の腰部痛等は、被告A社の文書管理センターにおいて本件段ボール箱を取り扱う作業に従事したことによって生じたものと認められるが、この点について、被告A社に原告に対する安全配慮義務違反があったといえるかを検討する。

 安全配慮義務の内容は、職務の性質や労働者の状態等の具体的状況に応じて判断されるべきであるが、重量物を取り扱う職場などにおいて腰痛等の発生を防ぐための指針として、「職場における腰痛予防対策指針」との通達(平成6年9月6日付け基発第547号)が労働省から発せられている。上記通達は、行政的な取締規定に関連するものではあるが、その内容が基本的に労働者の安全と健康を確保するためのものであることに鑑みれば、使用者の労働者に対する安全配慮義務の内容を考える際の基準となるものと解すべきである。

 原告が腰痛症の診断書を職場に提出して休職し、同月21日には、被告A社の本社を訪れて、被告Y1及び被告Y2に対し、梱包物の搬出作業中に腰を痛めて休職中だが、引き続き休みたい旨を申し入れていることが認められるから、遅くともこれらのときには、被告A社は、原告の症状を認識していたはずである。

 原告は、同年8月6日に、「腰椎椎間板症」の診断ではあるが、「最近腰痛の訴えが軽減しつつあるので、腰痛の増悪がなければ就労は可能と考える」旨の診断書を受け、同月7日から職場に復帰したのであって、原告の症状及び腰痛の増悪について経過観察が必要であるとされていることからすれば、使用者である被告A社としては、原告の腰痛の状態について定期的に医師の診察を受けることを指示するなどして、原告の腰痛が増悪していないかどうかを慎重に把握し、原告の健康を保持するために必要があると認めるときは、作業方法の改善や作業時間の短縮等必要な措置を講ずべき安全配慮義務があったというべきである。

 上記のような具体的な状況下にあっては、被告A社は、原告の要望に応じるにとどまることなく、原告の腰痛が増悪していないかどうかを的確に把握するため、原告に定期的に医師の診察を受けるように指示するなどして原告の腰痛の状態に配慮し、必要に応じて産業医の意見を聴くなどして、そのまま従前の業務を継続させることにより原告の健康を更に害するおそれがあると認められるときには、作業方法等の改善や作業時間の短縮等、それでも足りない場合にはより腰に負担のかからない他の業務に配置転換するなど、必要かつ適切な措置を講ずべき義務があったというべきである。

 それにもかかわらず、被告A社は、原告の腰痛が増悪していないかどうかを把握しないまま、漫然と、原告に従前の業務を継続させたために、原告の腰痛が増悪して、就労が困難な状態となるとともに、前記認定のとおりの腰部痛等の傷害を生じたものと認められる。

 したがって、この点において、被告A社には原告に対する安全配慮義務違反があったというべきである。


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