裁判所の判断

 原告の腰部痛等は,被告A社の文書管理センターにおいて本件段ボール箱を取り扱う作業に従事したことによって生じたものと認められるが,この点について,被告A社に原告に対する安全配慮義務違反があったといえるかを検討する。

 安全配慮義務の内容は,職務の性質や労働者の状態等の具体的状況に応じて判断されるべきであるが,重量物を取り扱う職場などにおいて腰痛等の発生を防ぐための指針として,「職場における腰痛予防対策指針」との通達(平成6年9月6日付け基発第547号)が労働省から発せられている。上記通達は,行政的な取締規定に関連するものではあるが,その内容が基本的に労働者の安全と健康を確保するためのものであることに鑑みれば,使用者の労働者に対する安全配慮義務の内容を考える際の基準となるものと解すべきである。

 原告が腰痛症の診断書を職場に提出して休職し,同月21日には,被告A社の本社を訪れて,被告Y1及び被告Y2に対し,梱包物の搬出作業中に腰を痛めて休職中だが,引き続き休みたい旨を申し入れていることが認められるから,遅くともこれらのときには,被告A社は,原告の症状を認識していたはずである。

 原告は,同年8月6日に,「腰椎椎間板症」の診断ではあるが,「最近腰痛の訴えが軽減しつつあるので,腰痛の増悪がなければ就労は可能と考える」旨の診断書を受け,同月7日から職場に復帰したのであって,原告の症状及び腰痛の増悪について経過観察が必要であるとされていることからすれば,使用者である被告A社としては,原告の腰痛の状態について定期的に医師の診察を受けることを指示するなどして,原告の腰痛が増悪していないかどうかを慎重に把握し,原告の健康を保持するために必要があると認めるときは,作業方法の改善や作業時間の短縮等必要な措置を講ずべき安全配慮義務があったというべきである。

 上記のような具体的な状況下にあっては,被告A社は,原告の要望に応じるにとどまることなく,原告の腰痛が増悪していないかどうかを的確に把握するため,原告に定期的に医師の診察を受けるように指示するなどして原告の腰痛の状態に配慮し,必要に応じて産業医の意見を聴くなどして,そのまま従前の業務を継続させることにより原告の健康を更に害するおそれがあると認められるときには,作業方法等の改善や作業時間の短縮等,それでも足りない場合にはより腰に負担のかからない他の業務に配置転換するなど,必要かつ適切な措置を講ずべき義務があったというべきである。

 それにもかかわらず,被告A社は,原告の腰痛が増悪していないかどうかを把握しないまま,漫然と,原告に従前の業務を継続させたために,原告の腰痛が増悪して,就労が困難な状態となるとともに,前記認定のとおりの腰部痛等の傷害を生じたものと認められる。

 したがって,この点において,被告A社には原告に対する安全配慮義務違反があったというべきである。