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業務上腰痛の損害賠償②(労災の損害賠償)


業務上腰痛の損害賠償で、紹介した安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の裁判例の詳細を紹介します。

信濃運送事件(長野地裁平成19年12月4日判決)

 運送会社の従業員としてトラック運転の業務に従事していた労働者が、腰椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄の後遺障害を負った事案です。使用者である会社の安全配慮義務違反の有無が、争点になりました。

事案の概要

 被告は自動車運送事業等を業とする株式会社である。原告は、昭和38年11月22日生の男性で、平成9年9月23日に被告に入社したが、平成15年9月20日に退社した。

 原告には被告に入社する前に腰痛、ヘルニア等の既往症はなかった。原告は、平成11年7月19日午前7時30分ころ、埼玉県越谷市所在の被告取引先の荷物卸場において、荷卸し作業中に腰に激痛を感じた。

 原告は、入通院治療を受け、平成14年7月31日に症状固定した。原告は、椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄の後遺障害を負い、平成14年10月30日、長野労働基準監督署から「神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」として労災等級9級7の2の労災認定を受けた。

 原告の被告における勤務形態は概ね次のようなものである。なお、原告が運転したのは全長12mくらいの10t積みの大型トラックで、運転や荷積み・荷卸しはいずれも原告一人で行い、補助者が付いたりすることはなかった。

 (1) 原告は金曜日の午前8時に、長野県千曲市にあるMK精工で、日曜日に出発する川口便の荷物をトラックに積み込む。次に、長野市篠ノ井の諏訪倉庫に行き、MK精工関連の荷積みをし、最後に長野県信濃町のMK精工関連事業部で荷積みをする。積み込む荷物は時期によって若干異なるが、米びつ(品名キャビー)130箱(一箱25㎏、55㎝四方で高さ1.25m)などで、米びつが130箱に満たないときは、シューズボックス20箱などを積み込んだりする。原告は午後5時頃、長野市の被告の事業所に戻り帰宅する。

 (2) 原告は日曜日の午後9時に被告の事業所に出勤する。冬季には約30分、夏季には約15分のトラックの暖機運転をし、翌朝の渋滞を避けるため、午後9時55分ころトラックを運転して出発する。行き先は日によって異なることもあるが、80%くらいは埼玉県川口市のMK精工関東販売である。走行距離が300㎞を超えていないので、高速道路の使用は認められていなかった。

 (3) 原告は月曜日の午前2時35分ころに川口市に到着する。MK精工関東販売の到着時刻は午前7時30分とされており、原告はMK精工関東販売の開門時刻の午前7時までMK精工関東販売の門のすぐ横の路上にトラックを停めて待機し、午前7時以降、MK精工関東販売の構内でトラックを停めて待機する。午前8時30分から1時間10分程度かけて荷卸しをする。

 午前9時40分に川口市のMK精工関東販売を出発し、午前11時5分に横浜の日本精糖に到着し、30㎏の砂糖の袋150個ほかを積み込む。午前11時40分ころ長野に向けて出発し、午後6時ころ長野市の被告の事業所に到着する。

 (4)原告は火曜日の午前6時35分ころ前日に運搬した砂糖等を載せたままのトラックで長野昭和商事株式会社長野支店に行き、荷卸しの準備をした後、仮眠をして、午前8時頃から九時頃まで荷卸しをする。その後、長野県千曲市のMK精工、長野市篠ノ井の諏訪倉庫、長野県信濃町のMK精工オート関連事業部に順に行ってそれぞれ二時間くらいかけて荷積みをし、自宅に戻って待機する。

 原告は午後9時55分ころ被告の事業所を出発して、翌水曜日の午前2時35分頃川口市のMK精工関東販売に到着する。茨城県の鹿島市に行くこともある。また、大阪に行くこともあり、その場合は午後7時30分ころ被告の事業所を出発して、翌水曜日の午前3時10分頃大阪に到着する。

 (5) 水曜日、MK精工関東販売に行った場合、(3)と同様に荷卸しして日本精糖を回って長野に帰る。茨城県鹿島市に行った場合、種粕(一袋20㎏を約500袋、トップビーン(豆)(一袋30㎏で約330袋)、サラダ油や菜種油(一斗缶16.8㎏から20㎏、500缶から600缶)等を積み、鹿島を午後4時ころ出発して長野に翌木曜日の午前4時ころ到着し、さらに、長野県の須坂、中野、木島平、戸狩等の問屋に運搬する。これらの荷卸しが午前11時半から午後1時ころに終わり、その後、長野県千曲市のMK精工に行き積込みをする。

 水曜日、大阪に行った場合、大阪第一貨物で荷卸しをし、翌木曜日の午前9時30分に大阪府岸和田市に行き、30㎏の生地の箱を約300個積込み、翌金曜日の午前4時30分に長野県南安曇郡三郷村温に到着し、休憩して、午前7時30分から荷卸しする。

裁判所の判断

 裁判所は、以下のとおり、会社の安全配慮義務違反を肯定しました。

 原告が被告において従事していたトラック運転と荷積み・荷卸しの労働は腰に負担がかかり、その程度が重ければ、椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄等の腰部の障害を生じさせる可能性のあることは明らかである。したがって、被告としては、雇用契約上の安全配慮義務として、原告の従事する労働を原因として腰部に障害を生じさせないようにする注意義務を負っていたといえる。そして、平成6年9月6日付「職場における腰痛予防対策の推進について」と題するの通達は、旧労働省において、広く職場における腰痛の予防を一層推進するための対策として旧労働省の委託を受けた中央労働災害防止協会による調査研究を踏まえて定められ、事業者に周知すべきものとされていること、労働大臣告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」はトラック運転者の労働条件の改善を目的にして策定されたものであることが認められるから、これらの通達、大臣告示は、当然、事業者において遵守することが望まれるものである。もっとも、通達において定められた事項は多岐にわたり一般的抽象的なものや過分の手間・費用を要するものもあるし、労働大臣告示で定められた労働時間も一種の目安であるから、その違反が直ちに雇用契約上の安全配慮義務違反となるものではないが、その趣旨、目的からいって、違反の程度が著しかったり多項目にわたったりするような場合には、雇用契約上の安全配慮義務違反となると考えられる。

 木曜日の須坂、中野、飯山等への配達では、問屋ごとに種粕(一袋20㎏を約500袋)、トップビーン(豆)(一袋30㎏で約330袋)、サラダ油や菜種油(一斗缶16.8㎏から20㎏、500缶から600缶)等の荷物を手作業で各倉庫にまで運ばねばならなかったこと、南安曇郡での荷卸しでも一箱30㎏の生地の箱を約300個、一箱ずつ15m歩いて倉庫まで運ばねばならなかったことが認められる。前記の通達やその解説では、トラックへの荷積みや荷卸しの際に適切な補助具を導入することが腰痛予防のための人間工学的対策とされているところ、本件証拠上、被告においてはこうした人間工学的な対策がとられたとは認められない。前記の通達やその解説では、補助具として、昇降作業台、足踏みジャッキ、サスペンション、搬送モノレールなどが例示されているところ、これらの中には導入に過分の手間や費用がかかるものもあるから、これらを導入しないことが直ちに安全配慮義務違反になるとはいえないが、少なくとも原告の主張する台車の導入は容易であったはずであり、この点に関し、被告の安全配慮義務違反を否定することはできない。

 被告は、台車などの補助具は荷先の物を用いるのが普通で運送業者において用意する必要はないと主張するが、仮にそうであるとしても、被告は荷先の台車等を使用できるように配慮する義務を負うといえるから、被告の安全配慮義務違反を否定することはできない。

 平成11年1月7日から7月19日まで原告の運行回数は61回であること、そのうち、一回の運行を開始し終了するまでの時間(一運行あたりの拘束時間)は、40時間超のものが4回、35時間から40時間未満のものが7回、30時間から35時間未満のものが6回、25時間から30時間未満のものが17回、20時間から25時間未満のものが18回、16時間から20時間未満のものが6回、16時間未満のものが3回あったこと、勤務と勤務の間の休息時間は、8時間未満のものが27回あり、そのうち3時間未満のものが2回、3時間以上5時間未満のものが8回、5時間以上7時間未満のものが8回あったことが認められる。こうした労働実態は前期の労働大臣告示を大きく逸脱するものであり、被告に安全配慮義務違反のあることは明らかである。

 原告は、被告が、55㎏または労働者の体重の40%を超える重量物を取扱わせる場合には二人以上で行わせる義務、荷物の取扱いを容易にする義務、作業内容、取扱う物の重量、自動化の状況、補助機器の有無、労働者の数等つまり作業の実態に応じ、作業時間や作業量を適正に設定する義務、作業姿勢や動作について腰痛防止に必要な指導、注意をする義務、長時間、車両を運転した後に物を取り扱わせる場合には、小休止、休息をとらせ、かつ、作業前体操をしたうえで作業を行わせる義務等に違反したと主張する。原告の当時の体重は約75㎏であり扱った荷物の重さは30㎏程度までの物が多いことが認められ30㎏を超える荷物があったかは明確でないこと、荷物に取っ手を付けたりすることが荷主の承諾なくできるのか疑問であること、腰痛防止に必要な作業姿勢や動作をとること及び小休止や作業前体操などは、雇用主の指導がなくとも従業員の方でもある程度注意すべきであること等に鑑みると、これらのいずれかを履践しなかったというのみで直ちに被告の安全配慮義務違反となるとはいい難い。しかしながら、原告の労働は一度に20㎏の袋を約500袋、30㎏の袋を約330袋、積み込んだりするなど常識的にいっても肉体的負担の大きなものであることは否定できないから、被告には腰痛予防のための何らかの配慮は求められるところ、本件証拠上、被告は原告が主張する事項のいずれについても配慮したとは認められないから、原告が主張する事項を全体としてみると、被告に安全配慮義務違反はあったといわざるを得ない。


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