裁判所の判断

 使用者は,労働者を雇用して自らの管理下に置き,その労働力を利用して企業活動を行っているものであるから,その過程において労働者の生命,身体,健康が損われることのないよう安全を確保するための措置を講ずべき安全配慮義務を負っている。本件では,原告が従事した本件クレーンの運転は,運転手に対し常時両足を浮足状態にして体重を腰や背中で支えるような不安定な姿勢を強いるもので,しかも,被告はクレーンを含む小型クレーンの運転手が腰痛を訴えていたことを,遅くとも,昭和40年ころには知っていたのであるから,被告としては,原告にこのような作業を命ずる場合には,職業性及び災害性の腰痛症の発生を防止するため,このような運転姿勢が避けられないなら,その作業取扱量,作業時間,作業密度等の労働条件に思いを致し,腰痛症の発症要因の除去,軽減に努め,更には,腰背部に負担がかからないように,本件クレーンの改良等に努めるべき業務があり,また,腰痛症に罹患し,職場復帰した原告に対し,その病勢が増悪することのないように措置すべき業務があったといわざるを得ない。

 原告が本件クレーンに乗機するようになった昭和41年3月以降,本件クレーンの一日当たりの取扱屯数及び一時間当たりの取扱屯数は昭和37年のそれらと比較すると相当増加している反面,本件クレーンの両時期における実働時間は短縮され,その分,労働密度が高くなり,労働強化がはかられているのであるから,被告には腰痛症の発症要因の除去,軽減に努めるべき義務を怠った債務不履行により原告に第一次腰痛症を発症させたといわざるを得ない。なお,被告がした小型クレーンの改良措置は十分なものでなく,原告の腰痛症発症の防止には役立たなかった。また,第二次腰痛症についても,被告は第一次腰痛症を私病扱いにし,療養中であった原告の職場復帰にあたって,原告の腰痛症状にあわせた内容の業務を与えず,業務量について適切な軽減措置をとらないまま,原職にフルタイムの作業をさせたもので,その労働負担が直接アウトリガー事故を招来したとはいえないけれども,少くとも腰痛症の病勢悪化をもたらしたことは否定することができず,この点においても被告は債務不履行責任を免れることはできない。