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脳・心臓疾患の労災認定と基礎疾患②


高血圧の基礎疾患があった労働者が夜勤中に脳出血による死亡について、業務起因性を否定した最高裁判決を紹介します。

昭和郵便局事件(最高裁平成8年1月23日判決)

 高血圧の基礎疾患があった郵便局副課長が、夜勤中に、脳出血で死亡した事案です。脳出血による死亡が、公務災害に当たるか?が争われました。

にゃソラ

労災を肯定した最高裁判決を紹介した「脳・心臓疾患の労災認定と基礎疾患」も参照

脳・心臓疾患の労災認定と基礎疾患

脳・心臓疾患の労災認定に関して、労働者に基礎疾患がある場合の因果関係を判断した最高裁判決を紹介します。

事案の概要

 Xは、郵便局に採用され、以後郵便内務業務に専ら従事し、昭和52年7月26日郵便局郵便課副課長に発令され、死亡時まで3か月21日間、その職務に在任していた。Xは34年2か月の郵便局勤務のうち、3年間の寮長以外は郵便内務業務に専念したもので、その実務、特に手作業による差立、配達区分業務には熟達していた。

 Xの副課長としての勤務時間は、日曜日、祝日は午前9時から午後5時5分までの日勤、週休日が週1回、それ以外の勤務日(週5日)は午後1時から午後9時5分までの夜勤、勤務時間中に45分の休憩、28分の休息時間が与えられていたが、前々任の副課長以来の慣行で、夜勤の日は午前10時ころまでに出勤することとなっており、Xが着任した際、課長から同様の指示を受けたので、これに従い夜勤日には午前10時ころに出勤し(超勤2時間が命令されていた)、差立最終便である名天上五号便(午後9時8分)の発車時間後、身辺を整理して午後9時15分から30分に退勤していたので、夜勤日の在局時間は約11時間30分に及んでいた。

 Xは現場での郵便内務業務に熟達し、管理統轄事務は不得手であったため、副課長の職務のうち課長の補佐や課員の指導監督といった管理職としての本務には熱心でなく、専ら現場における郵便物の処理、中でも差立業務の応援に没頭するように職務を遂行していたので、課長は、従前の副課長の勤務態度と異なり、差立現場の一実務要員化したXの執務態度に不満を抱き、何度も現場の作業よりも本来の管理業務に中心を置いて、副課長職を処理するよう注意していたが、同人はこちら(差立業務等)の方が得意だからと応答して改めようとしなかった。

 Xは、副課長の職務のうち管理的職務に重きを置かず、現場業務、特に差立区分業務の処理に殆んど全精力を注いでいたものと認められるのであるが、差立作業そのものは区分棚の前に立ち約60の区分口へ郵便番号や宛先を見ながら郵便物を区分して入れる単純な作業であり、アルバイトの高校生、主婦でも3日間位で習得できる内容であった

 Xは、夜勤の出勤時間である午前10時ころ出勤し、午前中は副課長としての通常業務に従事し、午後1時20分ころから、第二集配課副課長の運転する官用車で、局から約1キロメートル離れた税務署へ年賀はがき約2万枚を配送した。同はがき二万枚は5箱合計約50キログラムで、Xと副課長の二人で2回にわけ、はがきを同署の建物内へ運んだ。午後2時ころ帰局してから通常業務に従事していたが、午後4時45分ころ集配副課長に眩暈がする旨訴えたもののそのまま業務に従事し、午後6時50分休憩時間中夕食をとるため、局から150メートルほど離れた食堂へ向かい、同食堂の西隣の薬局で頭がふらふらするといって鎮痛剤を購入し、食堂で定食物を注文し、半分ほど食べ残して、午後7時10分ころ同食堂を出た後、よろよろしながら又薬局へ入って行き、「わしは血圧が高い。」といって倒れ込んだため、救急車で直ちに病院へ搬送され、翌日午前4時40分死亡した。

 Xは、満41歳であった年の定期健康診断において、血圧値最大174(mmHg、以下同じ)、最小108を記録して血圧異常者区分基準(郵政省健康管理規程による)高血圧A、要指導者と判定区分されて、以後高血圧症を有し、死亡10日前に血圧値最大191、最小121を記録して高血圧B、要治療者と判定区分されるまでの間9年半に亘り、医師による診察、降圧剤の投与を受け、3週間の入院加療を受けたこともあった。

最高裁の判断

 最高裁は、死亡の原因は必要な血圧コントロールを怠ったことによる高血圧症の憎悪によるものであり、業務内容が過重労働ではないとして、公務災害ではないと判断しました。

 X(死亡当時50歳)は、約9年前から本態性高血圧症が続き、健康管理医によって、月1回は診察を受けて治療及び日常生活上の指導を受けるように指示されていたにもかかわらず、これを遵守せず、食事・運動療法もしないなど必要な血圧コントロールを怠ったため、死亡10日前の検査では、最高血圧191及び最低血圧121と記録されるに至ったというのであり、他方、郵便局郵便課副課長の地位にある管理職で、平常日は2時間の超過勤務が常態となっており、死亡の5日前には休日出勤しているなどの事情があるものの、その業務内容には、肉体的、精神的に過重労働と認め得るようなものはなかったというのである。そうであれば、死因である脳出血は、血圧のコントロール不良による高血圧症の増悪に起因するものであり、公務に起因することの明らかな疾病に該当するとは認められない。


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