昨日まで、元気に働いていた?
いつもより少し遅く帰ってきた夫は、顔色が悪くて、返事もどこかぼんやりしていた。
「疲れた…」とだけ言って、夕飯も食べずに寝室へ。
翌朝、目を覚ましたときには、もう意識がなかった。救急車で病院に運ばれて、医師から告げられたのは「脳梗塞です」との言葉。
「嘘でしょ」と耳を疑った。昨日までは、確かに自分の足で帰ってきたのに。
頭が真っ白になりながらも、ふと浮かんだのは「夫の働き方」のことだった。ここ数ヶ月、明け方に帰る日が続いていたし、週末も電話が鳴っていた。
もしかして、働きすぎが原因なんじゃないか?
でも、それって「労災」になるの?家族の私に、何ができるの?
家族が労災について知っておくべき理由
労働者が過労で倒れたとき、労働者本人が、すぐに労災保険の請求などの手続きをすることはできません。また、「過労が原因かも」と気づけるのは、むしろ家族かもしれません。
残業が続いていたこと、帰宅後もパソコンに向かっていたこと、休日に会社から何度も電話がかかってきていたこと、本人が「忙しすぎて、いつ倒れてもおかしくない」と冗談めかしていたこと
こうした日々の変化に気づけるのは、身近な家族だからこそです。しかし、こうした日々の変化に気づいていながら、家族がすぐに動けるとは限りません。
・仕事が原因で倒れたら労災になるの?
・家族が申請できるの?
・どうやって証明するの?
・会社に迷惑がかかったりしない?
ただでさえ、家族が倒れて不安な時に、これらの疑問や不安も押し寄せてくるからです。それでも、「過労による労災」かもしれないと思い至れば、労災保険の請求や会社への損害賠償請求につながります。
当たり前ですが、制度を理解していなければ、利用できません。労働者本人が動けないからこそ、家族が労災について、理解することが重要なのです。
倒れた直後に家族ができること
家族が倒れたのは、過労が原因なんじゃないか?と思った際に、家族ができることをまとめました。
情報(メモ)を残す
家族ができる第一のことは、情報をしっかりと残すことです。たとえば、以下のような情報をメモなどで残しておいてください。
家族が残しておくべき情報
倒れる前にどんな仕事をしていたか:勤務内容、出張、深夜業務など
残業時間や休日出勤の状況
帰宅時間、睡眠時間
倒れた前後の会話:本人が「限界」「もうムリ」と言っていた等
医師から聞いたこと
これらの情報を残しておくと、労災保険の請求後の労基署の調査の際に、誤った情報を伝えたり、伝えるべき情報を伝え忘れることを防ぐことにつながります。
医師に仕事のことを伝える
医師の診断書は、労災請求の柱のひとつになります。本人の勤務状況や長時間労働の事実など以下のような時報を医師に伝えましょう。後々、医師の意見書に内容が反映される可能性があります。
医師に伝えるべき情報
具体的な労働時間(特に残業時間)
不規則な勤務形態や深夜勤務の頻度
精神的・身体的負荷の具体的な内容(ハラスメント、責任の重い業務、肉体労働など)
発症前の体調変化や疲労の蓄積状況
そのためにも、情報を残す、メモを取っておくことが重要です。
証拠の確保
過労による脳・心臓疾患の労災認定は、仕事が特に過重だったということを証明する必要があります。そのために、仕事が特に過重だったことを証明するための証拠が必要です。
会社が保管している証拠(タイムカード、賃金台帳、就業規則、労働者死傷病報告書など)は、会社に開示を求める必要があります。
スマホやPC、交通系ICカードの履歴など労働者本人の手元に証拠があります。また、会社から貸与されているスマホやPCなどを会社に返却する前に、データを保存しておくことも重要です。
労災と認められるには?
過労による脳・心臓疾患の労災認定は、業務中の事故におるケガの労災認定と異なり、その判断が難しい類型です。
脳・心臓疾患の発症前に、業務による明らかな過重負荷を受け、そのことが原因で発症したと認められる場合に、労災と認められます。
どのような場合に、業務による明らかな過重負荷があるといえるのか?について、厚労省が認定基準を定めています。
過重労働の典型は、長時間労働です。発症前1か月間に、おおむね100時間又は発症前2か月間~6か月間にわたり、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、労災と認定されることが多いです。
長時間労働以外では、不規則な勤務、拘束時間の長い勤務、出張の多い勤務、ストレスの多い勤務、身体的負荷が大きい業務なども過重労働かどうか?の評価の対象です。

過労による脳・心臓疾患の労災認定の概要は、以下の記事参照
会社が協力的じゃないとき、どうする?
家族が過労で倒れた場合、当然、会社に連絡する必要があります。最初に連絡するときは、まだ、労災保険の請求のことは伝えない方がいいかもしれません。会社によっては、労災保険の請求手続きを渋ることがあります。まずは、情報を残し、証拠を確保することに専念しましょう。
その後、会社に労災保険の請求のことを伝えることになります。会社が協力的であれば、会社と一緒に労災保険の請求手続きを進めることもできます。会社が協力的な場合でも、会社まかせにはしないことが重要です。
会社が協力的じゃない場合、会社が労災ではないと言って一切協力しない場合でも、労災保険の請求は可能です。そもそも、労災保険の請求は会社ではなく、労働者本人が行うものです。会社は手続きを代行しているだけです。
会社から「労災ではない」とか「持病のせいじゃないか」などと言われても、労災保険の請求を諦めないでください。労災かどうかを判断するのは、会社ではありません。労基署-最終的には裁判所-です。
労災保険の請求書には、会社が記入する事項があります。会社が協力せずに、記入してもらえない場合は、労基署に事情を説明した上で、空欄のまま提出すればOKです。
会社が労災の手続きをしてくれない
労災事故が発生したのにもかかわらず、会社が労災の申請をしてくれないことがあります。会社が労災の申請をしない場合、労働者はどうすればいいのか?を解説します。
家族が抱え込まないために

こんなことで相談していいのかな?

まだどうなるかもわからないのに、相談するなんて迷惑じゃないかな?
そのように思い、ひとりで抱えこんでしまうご家族の方が、たくさんいらっしゃいます。
決して、迷惑ではありません。
むしろ、早い段階での相談が、その後の生活を守る力になります。
まだ労災って決まってなくても大丈夫
たとえば、倒れてすぐの段階で「労災になるかどうか、まだわからない」状態でも、情報を整理したり、できることを確認しておくことは、とても大切です。
あとから「もっと早く知っておけば…」と後悔しないために。知っておくだけでも、十分すぎるほど意味があります。
「まだ早いかも…」と思った今が、いちばんのタイミング
労災かどうか?わからない、労災の手続きがわからない、家族として、何ができるかわからない
つらさや不安のなかにいるご家族が、一人で全部抱えこまなくていいように、専門家である弁護士にご相談ください。
まずは、お話を聞かせてください。

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