労災で休業中の労働者について、復職をめぐる問題を取上げます。
労災で休業中に休業期間が満了した

今、休職中なんですが、今月末に休業期間が終わるんです。
復帰できないとクビなんですか?

ウサラさんは、パワハラで適応障害になって休職したんですよね?

はい、そうです。労災も認定されました。

労災の業務災害で休業中の場合は、解雇制限があります。
治療中は解雇できないんです。

じゃぁ、クビにならないんですね?

はい、クビにはなりません。
労災での休業は解雇制限がある
「労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業している期間とその後30日間」は、会社は労働者を解雇できません(労基法19条)。
仕事中の事故によるケガやストレスによる適応障害・うつ病などの心の病気などで休業している場合は、休職期間が過ぎても、まだ治療中であれば、会社は解雇することはできません。
労災でも通勤災害は、解雇制限の対象外です。
症状固定したら…

労基署から今月末で症状固定だと言われて…労災での治療は終わりみたいなんだけど、会社に戻らないと解雇されるの?

症状固定後は、解雇制限がなくなります。
復職できるかを判断しないといけません。

いきなり戻れるか自信がないから、医者に時短勤務ならOKって診断書を書いてもらおうと思ってます。

その診断書だと、復職が認められない可能性が高いですよ。

えっ、そうなの?
労災の解雇制限は症状固定まで
労災の解雇制限は、「労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業している期間とその後30日間」です。つまり、労災での治療が終了した後30日を経過すると、解雇制限はなくなります。労働者がまだ病院に通院していても、症状固定だと判断されれば、解雇制限はなくなります。
復職の判断基準
労災で休業中に症状固定となったら、復職の可否を判断する必要があります。復職=休職事由が消滅したことです。つまり、会社との労働契約に基づく債務の本旨に従った履行を提供できるか?が問題です。具体的には、以下のとおりです。

相当期間は、裁判例では2,3か月、長くても4か月程度です。
なお、職種や業務内容を特定せずに、労働契約を締結している場合は、以下の場合も復職の要件を満たします。
職種や業務内容を特定せずに、労働契約を締結している場合
現に就業を命じられた従前の業務について労務の提供が十分にできないとしても、労働者が配置される現実的な可能性があると認められる他の業務について、労務を提供でき、かつ、その提供を申出ている場合
※最高裁平成10年4月9日判決
従前の職務を通常の程度に行える健康状態?
実際に、どの程度まで回復していればいいのでしょうか?裁判例によると、以下のように考えられます。
従前の職務を通常の程度に行える健康状態
労働者の能力、経験、その他精神的不調の回復程度等に照らして、相当の期間内に、業務遂行能力が通常の業務を遂行できる程度に回復すると見込めるかを医学的な見地から判断する
従前の職務とは、本来担当すべき通常の職務です。休業前に実際に担当していた機械的単純作業である軽微な職務ではありません。
労働者が総合職の場合は、総合職の職務を相当期間内に、①従前の業務を通常の程度に行うことができるか及び②総合職の範囲で配置可能な現実的可能性のある業務はあるかを判断します。
復職可能か判断するのは会社
上記の復職の判断基準に基づいて、復職、つまり、休職事由がなくなったことを証明するのは労働者です。復職の可否を判断するのは、会社です。
厚労省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」にも、以下のように書かれています。
心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き
①主治医による診断は、日常生活における病状の回復度合いによって職場復帰の可能性を判断していることが多い
②主治医による診断は、職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らない
つまり、主治医による診断書があれば、復職できるわけではありません。労働者が主治医による診断書を会社に提出するのは、復職の可否を判断してほしいという申し出にすぎないのです。
会社が復職の可否を判断するのに十分な情報がない場合は、以下のような措置を行うことが考えられます。
会社が復職の可否を判断するのに十分な情報がない場合の措置
①会社が指定する医師の受診を勧める、労働者が拒否すれば受診命令
②会社担当者や産業医が主治医と面談できるよう労働者の同意を求める
③試し出勤
会社が復職の可否を判断できない場合

従業員から復職の申出があったんですが、判断がつかなくて…

そういう場合は、休職期間を延長したり、試し出勤をしてみるという方法があります。
復職の可否を判断するのは会社ですが、復職の可否を判断できないというケースもあります。そのような場合、休職期間を延長したり、試し出勤をすることが考えられます。
休職期間の延長
復職の可否を判断が難しい場合、復職の可否を判断するために、休職期間を延長することが考えられます。この場合、あくまでも復職の可否を判断するための延長であることを労働者に了解してもらうことが重要です。
試し出勤
復職の可否の判断が難しい場合や主治医による判断に疑問がある場合は、休職期間が満了する前に、試し出勤を実施し、健康状態の回復程度を確認することが考えられます。
試し出勤は、復職後のリハビリ勤務として実施されることもあります。
試し出勤は、労働者、会社ともに、以下のようなメリットがあります。
試し出勤のメリット
労働者:円滑な職場復帰に役立つ、復職に不安がある場合は試し出勤により本人の退職や特例子会社への転籍への納得が得られる
会社:主治医と産業医の意見が異なった場合に試し出勤の結果が解雇等の措置の有効性の客観的な証拠になり得る
試し出勤の注意点
会社の指示に基づき業務をさせた結果、労働者の病気が悪化した場合、労災となる可能性があります。また、指示に基づき業務をさせる場合は、当然、賃金が発生します。
休職期間を延長して試し出勤を実施する場合は、①休職期間を延長すること、②通常業務ではなく復職の可否を判断するための試し出勤であることを労働者に書面で明示しておくことが必要です。休職期間終了後に、漫然と試し出勤を実施すると、後に、労働者から復職していたと紛争になることがあります。
労災で休職していて復職でお悩みの方へ
労災の休職と復職をめぐる問題を段階的に解説しました。会社と復職をめぐって紛争になるのは、復職についての知識がないこと、休職期間中に会社との意思疎通ができていないこと、会社が復職フローを作成しておらず場当たり的な対応をしていることなどが原因です。
労災で休職していて、復職について不安を感じたり、会社ともめている方は、早めに弁護士にご相談ください。

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