2025年5月14日、改正労働安全衛生法が公布されました。改正法の概要を取上げます。
- 1. 労働安全衛生法の改正
- 2. 個人事業主等に対する安全衛生対策
- 2.1. 注文者・元方事業者の配慮・義務が拡大
- 2.1.1. 配慮すべき事項の例示の拡大
- 2.1.2. プラッフォーマーも対象
- 2.2. 個人事業主等への義務付け
- 2.3. 業務上災害報告制度の創設
- 2.4. 施行日
- 3. ストレスチェック制度が全事業場に義務化
- 3.1. 施行日
- 4. 化学物質による健康障害防止対策の強化
- 4.1. 危険性・有害性情報の通知義務違反に罰則
- 4.2. 営業秘密の成分名、代替化学名等での通知を条件付きで容認
- 4.2.1. 非開示は成分名のみ
- 4.2.2. 医師への開示義務
- 4.2.3. 記録・保存義務
- 4.3. 個人ばく露測定の義務化と精度担保
- 4.4. 施行日
- 5. 機械等による労働災害防止の促進等
- 5.1. 特定機械等の製造許可・検査の民間移管拡大
- 6. 特定自主検査・技能講習の不正防止対策強化
- 6.1. 施行日
- 7. 高年齢労働者の労働災害防止の推進
- 7.1. 施行日
- 8. 治療と仕事の両立支援の推進
- 8.1. 施行日
- 9. まとめ
労働安全衛生法の改正
少子高齢化が進み、多様な働き方が広がる現代において、全ての働く人が安全かつ安心して働き続けられる職場環境の整備は喫緊の課題です。
今回の改正は、多様な人材が安全に、かつ安心して働き続けられる職場環境の整備を推進するため、以下の対策や取組みを強化するものです。
個人事業主等に対する安全衛生対策
今回の改正で最も注目すべきは、個人事業主等が、労働安全衛生法による保護の対象となり、同時に義務の主体としても明確に位置づけられた点です。これは、労働者だけでなく、個人事業主等を含むすべての作業従事者の災害防止を図ることを目的としています。

個人事業者のほか、厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業者や、これらの法人の代表者または役員も含みます。
注文者・元方事業者の配慮・義務が拡大
これまで建設工事の発注において、不適切な工期設定などが問題視されていました。今後は、建設工事以外の注文者にも、施工方法、作業方法、工期、納期等について、安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件を付さないよう配慮する義務が広く適用されることが明確化されました。
また、特定の作業場所において、元方事業者(建設業、造船業、製造業など)が講ずべき必要な指導や連絡調整等の措置の対象が、自社および関係請負人に雇用されている労働者から、個人事業主等を含む「作業従事者」に拡大されました。さらに、業種を問わず、労働者や個人事業主が混在する作業場所を管理する者(作業場所管理事業者)に対しても、自社と請負人が行う作業間の連絡調整等の必要な措置が義務付けられます。
配慮すべき事項の例示の拡大
無理な納期設定や作業方法の指定などが、配慮を要する条件として具体的に追加されています。
プラッフォーマーも対象
インターネット等を活用し、利用者とサービス提供者を結び付ける仕組みを提供するプラットフォーマーも、仕事を注文する場合にはこの規制の対象です。
個人事業主等への義務付け
個人事業主等も自ら安全衛生対策を講じる必要があります。具体的には、以下の措置が義務付けられました。
個人事業主等自身が講じるべき措置
①構造規格や安全装置を具備しない機械などの使用禁
②特定の機械などに対する定期自主検査の実施。
③危険・有害な業務に就く際の安全衛生教育の受講
これらの義務は、労働者と同じ場所で働く個人事業主等を労働安全衛生法による保護の対象及び義務の主体として位置づけるものです。
業務上災害報告制度の創設
個人事業主等の業務上災害が発生した場合、その災害発生状況などを厚生労働省に報告させることができる制度が創設されました。これは、今後の労働災害防止施策に役立てるための重要な一歩となります。
施行日
個人事業主等に対する安全衛生対策は、段階的に施行されます。一部は公布日(2025年5月14日)に施行済みです。残りは、2027年年1月1日、2027年4月1日に施行されます。
ストレスチェック制度が全事業場に義務化
これまで常用労働者数50人未満の事業場では努力義務とされていたストレスチェック制度が、全ての事業場に義務付けられます。
これは、メンタルヘルス不調の未然防止を推進するための重要な改正です。国は、小規模事業者が円滑に対応できるよう、50人未満の事業場に即したマニュアル作成や、高ストレス者への面接指導の受け皿となる地域産業保健センターの体制拡充などの支援策を講じていく予定です。
施行日
公布日(2025年5月14日)から3年以内に政令で定める日から施行されます。
化学物質による健康障害防止対策の強化
化学物質による健康障害を防止するため、以下の対策が強化されます。
危険性・有害性情報の通知義務違反に罰則
化学物質の譲渡・提供時における危険性・有害性情報の通知義務(SDS:安全データシートの交付)の履行を確保するため、通知義務違反に対する罰則が新たに設けられます。通知事項を変更した場合の再通知も義務化されます。
営業秘密の成分名、代替化学名等での通知を条件付きで容認
SDSに記載する化学物質の成分名に企業の営業秘密情報が含まれる場合、有害性が相対的に低い化学物質に限り、代替化学名等での通知が認められます。
以下の点に注意が必要です。
非開示は成分名のみ
人体に及ぼす作用や応急措置等については非開示は認められません。
医師への開示義務
医師が診断・治療のために成分名の開示を求めた場合は、直ちに開示する義務があります。
記録・保存義務
代替化学名等で通知を行った事業者は、実際の成分名等の情報について記録・保存が義務付けられます。
個人ばく露測定の義務化と精度担保
危険有害な化学物質を取り扱う作業場では、労働者が化学物質にばく露している程度を把握するため、個人ばく露測定が作業環境測定の一部として位置づけられます。有資格者(作業環境測定士など)が、作業環境測定基準に従って行うことが義務化されます。
施行日
段階的に施行されます。2026年4月1日、10月1日、公布(2025年5月14日)後5年以内に政令で定める日から施行されます。
機械等による労働災害防止の促進等
以下の2点の改正がされます。
特定機械等の製造許可・検査の民間移管拡大
ボイラー、クレーンなどの特定機械等の製造許可申請における設計審査や、製造時等検査(移動式クレーン、ゴンドラ)について、民間の登録機関が実施できる範囲が拡大されます。
特定自主検査・技能講習の不正防止対策強化
フォークリフトなどの一定の機械に対する特定自主検査において、基準が定められ、登録検査業者はこの基準に従う義務があります。
また、技能講習修了証等の不正な交付の禁止、不正を行った場合の回収命令、欠格期間の延長が規定されます。技能講習の対象業務も見直され、「車両系機械運転技能講習」が新たに定められます。
施行日
段階的に施行されます。2026年1月1日、4月1日に施行されます。
高年齢労働者の労働災害防止の推進
高年齢労働者の労働災害が増加傾向にあることを受け、事業者は、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、作業管理などの必要な措置を講じるよう努める義務を負います。

努力義務にとどまります。
国は、事業者によるこれらの措置が適切かつ有効に実施されるよう、指針を定め、必要な指導・援助を行うこととしています。
施行日
2026年4月1日から施行されます。
治療と仕事の両立支援の推進
職場における治療と仕事の両立を促進するため、事業者が必要な措置を講じることが義務となります。

努力義務にとどまります。
国は、これらの措置の適切かつ有効な実施を図るための指針を定める予定です。
施行日
2026年4月1日から施行されます。
まとめ
今回の労働安全衛生法改正は、多様な働き方に対応し、全ての働く人の安全と健康を守るための大きな一歩です。特に、個人事業主等への保護・義務の拡大や、ストレスチェックの全事業場義務化は、多くの企業や個人事業主の方々に影響を与えるでしょう。
各改正には施行期日が定められており、今後、関連する政省令や指針が順次示される予定です。企業や個人事業主の皆様は、これらの変更内容を早期に把握し、必要な対策を計画的に進めることが重要です。