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アスベストに関する工作物責任(労災の損害賠償)


民法717条の工作物責任(労災の損傷賠償と工作物責任)について、アスベストとの関係で問題になった最高裁判決を紹介します。

近鉄高架下文具店石綿事件(最高裁平成25年7月12日判決)

 労働者が、勤務先の文具店の壁面に吹き付けられていたアスベストの粉じんを吸引したことによって悪性胸膜中皮腫にり患し、その後、症状が悪化したことによる心理的負荷に起因し適応障害にり患し、自殺した事案です。

 勤務先建物の占有者であり所有者である会社の賠償責任をめぐり、勤務先建物に瑕疵があったのか?が問題になりました。

事案の概要

 Aは、昭和45年3月から平成14年5月まで、a鉄道b線c駅高架下所在の建物を店舗兼倉庫として使用する文具店の店長として、本件建物で勤務していた。

 本件建物の壁面の一部には、クロシドライトを25%含有する吹付け材が約3㎝の厚さに吹き付けられた状態のまま露出していた。本件建物は、鉄道の高架下にあるため、電車が往来する際の振動で上記吹付け材の粉じんが飛散しやすい状態にあり、昭和61年ないし昭和62年頃以降は、上記粉じんが目立って飛散していた。

 Aは、本件建物での勤務期間中、本件建物の壁面に吹き付けられた石綿の粉じんにばく露したことにより、悪性胸膜中皮腫に罹患し、平成14年7月にその旨の診断を受けて治療中、その症状の悪化等による精神的、心理的ストレスにより適応障害を発症し、平成16年7月20日、自殺した。

原審の判断

 原審は、次のように述べ、建物の占有者であり所有者である会社の責任を一部、認めました。

 民法717条1項は土地の工作物の種類に応じて通常有すべき安全性を欠くことをもって瑕疵としているところ、通常有すべき安全性とは、瑕疵判断の基準時に社会通念上要求される工作物の安全性をいい、客観的に定められるべきものである。当該基準時に社会通念上許容されない危険性が客観的に存在すれば、予見可能性・回避可能性がない場合でも瑕疵があると判断すべきであり、占有者のみが予見可能性・回避可能性を欠くことを踏まえた主張立証により責任を免れ得るにすぎない。所有者については、究極的な賠償責任を無過失で負担させることが著しく不合理とはいい難い。

 本件建物の壁面にはクロシドライトを一定量含有する吹付け材が露出しており、また、本件建物は鉄道の高架下にあって振動で上記吹付け材が飛散しやすい状態にあったところ、平成7年以降クロシドライトの製造及び使用が禁止されたことや、平成17年以降現在に至るまで事業者はその労働者が就業する建築物の吹付け石綿の粉じんにばく露するおそれがあるときは、当該石綿の除去等の措置を講じなければならないとされていることなどに照らせば、本件建物の壁面にクロシドライトを含有する吹付け材が露出していたことは、本件建物の設置又は保存の瑕疵に当たる。

最高裁の判断

 最高裁は次のように述べ、原審に差戻しました。工作物責任の追及に当たっては、工作物に瑕疵が生じた時期が問題になることがあるということです。

 土地の工作物の設置又は保存の瑕疵とは、当該工作物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうものであるところ、吹付け石綿を含む石綿の粉じんにばく露することによる健康被害の危険性に関する科学的な知見及び一般人の認識並びに様々な場面に応じた法令上の規制の在り方を含む行政的な対応等は時と共に変化していることに鑑みると、上告人が本件建物の所有者として民法717条1項ただし書の規定に基づく土地工作物責任を負うか否かは、人がその中で勤務する本件建物のような建築物の壁面に吹付け石綿が露出していることをもって、当該建築物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになったのはいつの時点からであるかを証拠に基づいて確定した上で、更にその時点以降にAが本件建物の壁面に吹き付けられた石綿の粉じんにばく露したこととAの悪性胸膜中皮腫の発症との間に相当因果関係を認めることができるか否かなどを審理して初めて判断をすることができるというべきである。

 原判決は、吹付け石綿の粉じんにばく露することによる健康被害の危険性に関する指摘等がされるようになった過程について第1審判決を引用して説示するだけで、結局のところ、本件建物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになったのはいつの時点からであるかを明らかにしないまま、Aが本件建物で勤務していた昭和45年3月以降の時期における本件建物の設置又は保存の瑕疵の有無について、平成7年に一部改正された政令及び平成17年に制定された省令の規定による規制措置の導入をも根拠にして直ちに判断をしていると解されるのであって、上記のような観点からの審理が尽くされていない。

 上記の観点から、本件建物に工作物の設置又は保存の瑕疵が認められる時期及び当該時期以降にAが本件建物の壁面に吹き付けられた石綿の粉じんにばく露したこととAの悪性胸膜中皮腫の発症との間の相当因果関係の存否等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す。


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