アスベストによる疾病の内、石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫の労災認定を取上げます。
石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫
石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫は、業務上疾病として例示列挙されています(労基法施行規則別表第1の2第7号8)。
中皮腫
中皮腫は、胸腔、心嚢腔、腹腔、精巣鞘膜腔において体腔表面を覆う中皮細胞から発生します。中皮腫の組織型には、上皮様、肉腫様、二相性があります。
アスベストばく露との関係
アスベストばく露開始から中皮腫の発症までの潜伏期間は、ばく露量が多いほど短くなります。平均的な潜伏期間は、肺がんより長くなっています。アスベストばく露開始からの年数を経るほど、発症リスクが高まります。労災認定された中皮腫の平均的な潜伏期間は、約38年~39年とされています。
労災認定
石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫の「石綿による疾病の認定基準について(平成24年3月29日基発329第2号)」によって行われます。
認定基準は、石綿ばく露労働者に発生した原発性肺がんと中皮腫について認定基準を定めています。なお、原発性肺がん・中脾腫とも最初の石綿ばく露作業を開始してから10年未満で発症したものは、労災と認定されません。
肺がん
石綿ばく露労働者に発生した原発性肺がんの内、以下のいずれかに該当する場合、労災と認定されます。
| 認定要件 | 必要な医学的所見 | 必要なばく露歴または併発症 |
| ①石綿肺所見 | 石綿肺の所見が得られていること(じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上)。 | なし |
| ②胸膜プラーク | 胸部エックス線検査、胸部CT検査等により、胸膜プラークが認められること。 | 石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あること。(注:平成8年以降の期間は1/2として算定) |
| ③石綿小体・繊維 | 以下のいずれかの所見が得られていること。 a. 乾燥肺重量1g当たり5,000本以上の石綿小体。 b. 気管支肺胞洗浄液1ml中5本以上の石綿小体。 c. 肺組織切片中の石綿小体または石綿繊維。 d. 乾燥肺重量1g当たり200万本以上の石綿繊維(5μm超)。 e. 乾燥肺重量1g当たり500万本以上の石綿繊維(1μm超)。 | 石綿ばく露作業への従事期間が1年以上あること。 |
| ④広範囲な胸膜プラーク | 以下のいずれかの所見が得られていること。 a. 胸部正面エックス線写真で胸膜プラークと判断できる明らかな陰影があり、CTで確認されるもの。 b. 胸部CT画像上で胸膜プラークの広がりが胸壁内側の1/4以上のもの。 | 石綿ばく露作業への従事期間が1年以上あること。 |
| ⑤高濃度ばく露 | 言及なし。 | 特定の高濃度ばく露作業(石綿製品の製造工程、石綿の吹付け作業など)への従事期間が5年以上あること。(注:平成8年以降の期間は1/2として算定) |
| ⑥びまん性胸膜肥厚 | 認定要件を満たすびまん性胸膜肥厚を発症していること。 | びまん性胸膜肥厚に併発したものであること。 |
中皮腫
石綿ばく露労働者に発症した胸膜、腹膜、心膜又は精巣鞘膜の中皮腫で、じん肺法に定める胸部X線写真の像の区分又は石綿ばく露作業従事時間が以下の(1)、(2)の場合、労災と認定されます。
中皮腫の労災認定の要件
(1)胸部X線写真で第1型以上の石綿肺所見がある
(2)石綿ばく露作業従事期間1年以上
中皮腫は、診断が困難な疾病です。そのため、病理組織検査結果に基づく確定診断(がんの組織型の確定および他疾患との鑑別等)が行われていることが重要です。労災認定に際しては、病理組織検査記録等も収集の上、確定診断がなされているかを必ず確認する必要があるとされています。