労災と業務上疾病

労災といえば、仕事中の事故が思い浮かびますが、業務上の疾病も労災の対象となります。

業務上疾病とは

 業務上疾病とは、文字通り業務に起因する疾病のことです。業務上疾病は、①災害性疾病と②非災害性疾病に区別されます。

 災害性疾病は、発生の態様・状態・性質から災害を媒介とする疾病のことです。業務と疾病の間に災害が媒介しているので、発症が時間的・場所的に明らかなものです。

 非災害性疾病は、その職業に内在する有害作用その他の性質の長期間の作用・影響により徐々に発生する疾病です。つまり、職業病です。職業病は、労働者自身の疾病として見過ごされることが多いといえます。

業務上疾病の例示

 労働者が業務上疾病を見過ごしたり,業務起因性の立証に困難を伴うことから,労基法は,規則において業務上疾病の範囲を例示列挙しています(労基法規則別表第1の2)。

 ①業務上の負傷に起因する疾病

 ②業務の内容,職場環境,取扱物質などに起因し医学経験上発生する蓋然性の高い特定の疾病,物理的因子による疾病

 ③作業態様に起因する疾病

 ④化学物質等による疾病

 ⑤粉じんの飛散による疾病

 ⑥細菌,ウイルス等の病原体による疾病

 ⑦がん原性物質,がん原性因子等による疾病

 ⑧脳・心臓疾患(過労死)

 ⑨精神障害(過労自殺)

 なお,これらは例示列挙であり,規定されていない疾病でも業務起因性が認められれば,労災と認定されます。

例示された疾病と例示されていない疾病

 前述のとおり,労基法で例示列挙されていない疾病も業務起因性が認められれば,労災と認定されるのですが,例示列挙されている疾病との間で,業務起因性の判断が異なってきます。

例示列挙された疾病

 例示列挙されている疾病は,危険有因因子のばく露を受ける業務と業務に起因して生じる疾病との間に,一般的に医学的な因果関係があることが確立されています。

 そのため,次の要件を満たせば,原則として業務起因性が認められ,労災と認定されます。

 (1)労働者が労基法規則で列挙されている危険有害因子にばく露されている

 (2)労働者が業務上の事由により発症原因とするに足りるだけの危険有害因子にばく露されている

 (3)労働者の疾病が,ばく露した危険有害因子により発症する疾病の症状・兆候を示し,かつ,ばく露の時期と発症との間,症状の経過について医学的矛盾がない

例示列挙されていない疾病

 個別事情ごとに,職歴,危険有害因子へのばく露,疾病の病態などから業務起因性が明らかであると認められた場合に限り,労災と認定されます。