労災保険における「治ゆ」とは、どういう意味ですか?
「治ゆ」の意義
労災保険の休業補償給付は、業務上の傷病による「療養のため」に、労働することができない場合に支給されます(労災保険法14条1項)。
また、労災保険の障害補償給付は、業務上負傷し、又は疾病にかかり、「治った」場合に身体に障害が存在する場合に支給されます。
以上のように、「療養のため」、「治った」場合というのが労災保険給付の支給要件となっているため、その意義が重要になります。
労災保険では、「治った」状態のことを「治ゆ」(症状固定)と呼んでいます。
一般に、「治った」とか「治ゆ」というと、病気やケガが完治したという意味で使うことが多いと思います。しかし、後述のとおり、労災保険では、完治という意味で使っていません。
「治ゆ」を医学的に説明すると
「治ゆ」を医学的に説明すると、負傷又は疾病による身体の諸器官、組織の器質的又は機能的障害が健康時の状態に回復することと言われます。
しかし、現実には、負傷により身体の一部が欠損したり、変形したりして健康時の状態に回復することなく、障害として固定してしまうことがあります。
労災保険における「治ゆ」
労災保険における「治ゆ」とは、業務上の負傷又は疾病に対して、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待し得ない状態に至ったものと説明されます。
負傷については、創面が癒合し、その症状が安定し医療効果が期待し得なくなったときをいいいます。
疾病については、急性症状が消退し、慢性症状は持続してもその症状が安定し、医療効果がそれ以上期待し得ない状態になったときをいいます。
以上のとおり、「治ゆ」とは、傷病の完全回復を意味しているわけではありません。
医療効果
労災保険のいう医療とは、医学上一般に認められた医療のことです。たとえば、実験段階や研究過程にある治療等医学上一般に認められていない医療で、たまたま効果が見られても、医療効果が期待される状態ではありません。
また、症状が安定状態になりつつあるときに、治療を中止すると症状が悪化し、治療を再開すると症状の改善が見られる場合に、症状の経過に顕著に差異が見られる場合は、まだ「治ゆ」の状態に至っていないと判断されます。
しかし、たとえば、骨折後の機能回復として理学療法を継続している場合で、治療時に少し運動障害が改善されるが翌日には前日の状態に戻るという状態が一定期間継続している場合は、「治ゆ」の状態に至ったと判断されます。