脳・心臓疾患の労災認定に関する最高裁判決を紹介します。
地公災岡山支部長事件(最高裁平成6年5月16日判決)
市役所の職員がソフトボール大会出場した直後に、急性心筋梗塞で死亡した事案です。
公務災害かどうか?が争われました。
事案の概要
Xは、死亡当時35歳の市職員で、生活保護ケースワーカーの業務を担当していたが、昭和59年6月6日午後8時40分、急性心筋こうそくにより死亡した。
年1回の定期健康診断の結果によれば、Xには高血圧がみられたが、心臓疾患の病歴はなかった。しかし、Xは、日ごろ、スポーツにさほど親しんでいなかった。
Xは、死亡当日、午後5時までの通常勤務をしてからいったん自宅に帰り、休息をとらずに、市・市職員厚生会主催の市職員文化体育祭会場に赴き、準備運動を経ることもなく、午後6時10分から公務として行われたソフトボールの競技に捕手として参加した。
本件試合において、6回裏に、Xは、内野安打で一塁に出塁し、次打者の二塁ゴロで二塁に進み、次々打者の三塁ゴロを三塁手が一塁に悪送球する間に二塁から本塁に一気に走って生還した。その後Xは、最後の7回表の守備に就いた際に、同僚職員の呼び掛けにもこたえず、疲れているように見受けられた。
本件試合は同日午後7時5分ころ終了し、Xは、試合終了のあいさつの後疲れたといってベンチに戻り、それから間もなく、腹部を押さえ顔面そう白になって気分が悪い旨訴え、うなり声を上げ、手が引きつる等の症状を示した。このため、同僚職員がXを自家用車で市内の病院に搬送して入院させたが、Xは、右病院に入院中の同日午後8時40分、急性心筋こうそくにより死亡した。
本件の争点
Xが急性心筋梗塞で死亡したことについて、公務起因性が認められるか?が争点です。
脳・心臓疾患の労災認定基準では、発症直前には「異常な出来事」が必要とされています。本件では、異常な出来事に該当する事実がありません。
最高裁の判断
最高裁は次のように述べ、Xが急性心筋梗塞で死亡したことは公務災害に当たると判断しました。
本件においてXに冠動脈の動脈硬化などの病変があったことは確定されていないところ、本件事実関係の下においては、最初の発症の時刻と本件試合においてXが短時間内に走行して塁間を一周するという心臓に多量の酸素を必要とする行為をした時刻との時間的間隔からすると、本件試合における右の行為がXの急性心筋こうそくの発症の原因となったことは、否定できない。そして、他に急性心筋こうそくを発症させる有力な原因があったという事実は確定されていないことからすれば、Xの死亡の原因となった急性心筋こうそくの発症と本件試合への参加行為との間に相当因果関係の存在を肯定することができる。