労災保険の適用の前提である労働者性を判断した最高裁判決を紹介します。
横浜南労基署長事件(最高裁平成8年11月28日判決)
車の持込み運転手が、労基法・労災保険法上の労働者に当たるか?が問題になった最高裁判決です。
労働者性については、以下の記事参照
最高裁は、労基法・労災保険法上の労働者には当たらないと判断しました。
事案の概要
上告人は、自己の所有するトラックを会社の横浜工場に持ち込み、同社の運送係の指示に従い、同社の製品の運送業務に従事していた。
(1)同社の上告人に対する業務の遂行に関する指示は、原則として、運送物品、運送先及び納入時刻に限られ、運転経路、出発時刻、運転方法等には及ばず、また、一回の運送業務を終えて次の運送業務の指示があるまでは、運送以外の別の仕事が指示されるということはなかった。
(2)勤務時間については、同社の一般の従業員のように始業時刻及び終業時刻が定められていたわけではなく、当日の運送業務を終えた後は、翌日の最初の運送業務の指示を受け、その荷積みを終えたならば帰宅することができ、翌日は出社することなく、直接最初の運送先に対する運送業務を行うこととされていた。
(3)報酬は、トラックの積載可能量と運送距離によって定まる運賃表により出来高が支払われていた。
(4)上告人の所有するトラックの購入代金はもとより、ガソリン代、修理費、運送の際の高速道路料金等も、すべて上告人が負担していた。
(5)上告人に対する報酬の支払に当たっては、所得税の源泉徴収並びに社会保険及び雇用保険の保険料の控除はされておらず、上告人は、報酬を事業所得として確定申告をした。
最高裁の判断
最高裁は、以下のように判断し、労働者性を否定しました。
上告人は、業務用機材であるトラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事していたものである上、会社は、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、上告人の業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえず、時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであり、上告人が会社の指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りないものといわざるを得ない。
そして、報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、上告人が労基法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。そうであれば、上告人は、専属的に会社の製品の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否する自由はなかったこと、毎日の始業時刻及び終業時刻は、運送係の指示内容のいかんによって事実上決定されることになること、運賃表に定められた運賃は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも1割5分低い額とされていたことなど原審が適法に確定したその余の事実関係を考慮しても、上告人は、労働基準法上の労働者ということはできず、労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しない。