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労働者の基礎疾患と労災認定


労災の認定に当たって、被災労働者の基礎疾患が問題になった最高裁判決を紹介します。

大館労基署長事件(最高裁平成9年4月25日判決)

 業務に従事中に、付近に重量物が落下して顔面を負傷する事故にあった2日後、非外傷性の脳血管疾患を発症した事案です。

 配電工の死亡が、労災か?が問題になった事案です。

事案の概要

 X(当時39歳)は、電気工として配電作業に従事していた労働者であるが、昭和53年12月30日午前2時35分、非外傷性の脳血管疾患(脳内出血又はくも膜下出血)によってもたらされた気道閉塞により死亡した。

 Xが死亡の原因となった脳血管疾患を発症する2日前である同月27日午後1時30分ころ、Xの同僚が建柱車に積載していた木製古電柱2、3本をクレーンでつり上げ、地上に降ろす作業をしていた際に、巻き過ぎによりワイヤーが切断され、その全部又は一部、金車及びこれと一体をなすフック(金車及びフックの合計重量は約30.8キログラム)がつり荷である電柱と共に、地上約3メートルの高さから落下し、落下地点付近で仕事をしていたXは、後ずさるような逃避行動をとったが、着用していた保安帽が脱げ落ち、鼻の左下端と口唇部左側上下二箇所に比較的小さな擦過傷又は軽度の圧挫傷を負った。

 Xは、本件事故後、頭痛、食欲不振等の自覚症状があり、上告人にもこれを訴えてはいたものの、その翌日及び翌々日も通常どおりに勤務を続け、木製電柱のコンクリート電柱への建替え等の作業に従事していたところ、同月29日午後4時20分ころ、鹿角市内において、地上約10メートルの電柱上で電気供給工事に従事中に、左手、左足をだらりとさせるなど、脳血管疾患の症状を示して具合が悪くなり、同6時5分ころ、救急車で鹿角中央病院に搬入された。なお、同日の気象条件は、最低気温が零下4.1度、最高気温が零下0.2度であった。

 Xは、鹿角中央病院入院時、左側片麻痺、歩行不能、発語・応答不能、意識不明瞭であったが、痛覚刺激に対する反応はあり、最高血圧240、最低血圧120であった。入院後、Xの意識状態等に一時改善がみられたが、翌30日午前0時45分ころ容態が急変し、前記のとおり死亡するに至った。

 Xは、長兄が35歳で脳溢血を起こし、母親も若年時ではないが脳溢血を起こすなど、その家庭歴に照らすと脳血管疾患にかかりやすい素因又は高血圧症等の基礎疾患を有していた可能性が低くはない。しかし、Xの勤務先では定期健康診断を実施しておらず、また、同人が個人的に健康診断を受けたこともなかったので、同人が右基礎疾患等を有していたことを明らかにする資料はない上、少なくとも死亡前約3年間は同人が医療機関で受診した形跡はうかがわれず、妻である上告人を含む周囲の者からはその健康状態に格別異常はないとみられていた。

最高裁の判断

 Xは、非外傷性の脳血管疾患を発症しているのであるから、その発症の基礎となり得る素因又は疾患を有していたことは否定し難いが、その程度や進行状況を明らかにする客観的資料がないだけでなく、同人は、死亡当時39歳と比較的若年であり、死亡前約3年間は医療機関で受診した形跡はなく、周囲の者からは健康状態に格別異常はないとみられていたというのであるから、同人の家族歴を考慮しても、基礎疾患等が確たる発症因子がなくてもその自然の経過により血管が破綻する寸前にまで進行していたとみることは困難である。

 そして、Xが脳血管疾患の症状を示す2日前に遭遇した本件事故は、金車及びこれと一体をなすフック等がつり荷である電柱と共に地上約3メートルの高さから同人の近くに落下し、その結果、同人が軽度とはいえ顔面を負傷したというものであり、事故態様に照らし、相当に強い恐怖、驚がくをもたらす突発的で異常な事態というべきであって、これによる精神的負荷及び本件事故後に生じた頭痛や食欲不振といった身体的不調は、同人の基礎疾患等をその自然の経過を超えて急激に悪化させる要因となり得るものというべきである。しかも、Xは、本件事故後も、このような精神的、肉体的ストレスを受けながら、厳冬期に、地上約10メートルの電柱上での電気供給工事等の相当の緊張と体力を要する作業に従事していたというのである。

 以上によれば、Xの死亡原因となった非外傷性の脳血管疾患は、他に確たる発症因子のあったことがうかがわれない以上、同人の有していた基礎疾患等が業務上遭遇した本件事故及びその後の業務の遂行によってその自然の経過を超えて急激に悪化したことによって発症したものとみるのが相当であり、その間に相当因果関係の存在を肯定することができる。Xの死亡は、労働者災害補償保険法にいう業務上の死亡に当たるというべきである。


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