労災保険の対象となるのは、労働者です。実務上、労働者かどうか?問題になることがあります。
労働者性がなぜ問題になるのか?
労働災害が発生した場合に、労災と認定されて、労災保険から給付を受けるためには、そもそも労働者であることが必要です。
労働者の定義ですが、労働法の分野では、法律によって、異なる定義がされています。労災保険は労基法の特別法なので、労災における労働者とは、労基法上の労働者と同じ概念です(最高裁平成8年11月28日判決)。
労働災害の被災者の契約形態や就労形態によっては、労災保険による保護の対象となる労働者なのか?という労働者性が問題になります。
労基法上の労働者とは?
労基法は、労働者を「職業の種類を問わず、事業又は事業所に使用される者で賃金を支払われる者」と定義しています(労基法9条)。
労働者性の判断に際しては、行政は、昭和60年12月19日付労働基準法研究会報告・平成8年3月労働契約等法制部会労働者性検討専門部会報告に基づいて判断しています。
使用従属性
労働者性の判断は、①使用される=指揮命令下の労働という労務提供の形態と②賃金支払という報酬の労務に対する対償性、つまり、報酬が提供された労務に対するものか?で判断されます。この2つをまとめて使用従属性と呼んでいます。
実際は、指揮監督の程度・態様の多様性、報酬の性格の不明確さなどのため、労働者性の判断が困難な場合があります。そのような場合、使用従属性の判断に当たって、専属度、収入額等の諸要素を考慮して、総合判断することで労働者性を判断されています。
指揮監督下の判断基準
仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無が判断基準の一つになります。
諾否の自由がある場合、従属して労務を提供するとは言えず、対等な当事者間の関係となり、指揮監督関係を否定する重要な要素になるとされています。
諾否の自由がない場合、一応、指揮監督関係を推認させる重要な要素となるとしています。
業務内容、遂行方法に対する指揮命令の有無
使用者の具体的な指揮命令を受けていることは、指揮監督関係の基本的かつ重要な要素です。もっとも、指揮命令の程度が問題です。通常注文者が行う程度の指示等に止まる場合は、指揮監督を受けているとは言えないとされています。
使用者の命令や依頼により、通常予定されている業務以外の業務に従事することがある場合、使用者の一般的な指揮監督を受けているとの判断を補強する重要な要素になります。
拘束性の有無
勤務場所、勤務時間が指定され、管理されていることは、一般的には、指揮監督関係の基本的な要素です。
ただし、業務の性質上、安全を確保する必要上等の理由で必然的に勤務場所、勤務時間が指定される場合があり、指定が業務の性質によるものか、業務遂行を指揮命令する必要によるものかを判断する必要があります。
代替性の有無
指揮監督関係を判断する補強要素とされています。本人に代わって他の者が業務を提供することが認められているかどうか、本人が自らの判断で補助者を使うことが認められているかどうかといった労務提供の代替性が認められている場合は、指揮監督関係を否定する要素の一つです。
報酬の労務対償性に関する判断
使用者が労働者に対して支払うもので労働の対償であれば、名目と問わず賃金です(労基法11条)。
労働の対償とは、労働者が使用者の指揮監督下で行う労働に対して支払うものなので、報酬が賃金かどうかで、使用従属性を判断することはできません。
ただし、報酬が時間給を基礎に計算される等、労働の結果による差が少ない場合、欠勤した場合に相応の報酬が減額される場合、残業した場合に通常の報酬とは別の手当が支給される場合は、使用従属性を補強する要素になります。
労働者性を補強する要素
労働者性を補強する要素として、次のものが挙げられています。
①事業者性の有無に関する判断
②機械、器具の負担関係
著しく高価な場合、自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行う事業者としての性格が強く、労働者性を弱める要素になります。
③報酬の金額
報酬の金額が同じ会社で同じ業務に従事している正社員と比べて著しく高額な場合、事業者に対する代金の支払と認められ、労働者性を弱める要素になります。
④その他の要素
業務遂行上の損害に対する責任を負う、独自の商号を使用している等を事業者としての性格を強める要素、つまり、労働者性を弱める要素としています。
⑤専属性の程度
特定の会社に対する専属性の有無は、直接、使用従属性の有無を左右するものではないとさえれています。したがって、専属性がないことが労働者性を弱める要素になるわけではありません。
他社の業務に従事することが制度上制約され、時間的余裕がなく事実上困難な場合、専属性の程度が高く、労働者性を補強する要素になります。
また、報酬に固定給部分があり、その金額が生計を維持できる程度のもであり、報酬に生活保障的な要素が強い場合は、労働者性を補強する要素となるとされています。