
仕事中にケガをして、まだ元の仕事には戻れないんだ。
でも先生に「軽作業ならできる」って言われた…これって、もう休業補償給付はもらえないの?

「軽作業可」という診断は、休業補償給付ではかなり重要だよ。ただ、「軽作業可」と書かれた瞬間に必ず打ち切りとまで単純にはいえないんだ。

えっ? 軽作業ができるなら、働けるってことじゃないの?

そこが難しいところ。裁判例には、一般的に軽作業ができるかを重視するものがある一方で、その人の労働契約や、それまでの仕事内容、会社に実際に軽作業があるのかまで考えるべきだとしたものもあるんだよ。

じゃあ…結局、どっちなの?

現在の実務では、「軽作業ができる」と判断されると休業補償給付は難しくなる、と考えておいたほうがいい。
ただし、診断書の一言だけじゃなくて、どんな作業ならできるのか、どんな制限があるのかなど、具体的な事情を見る必要があるよ。
- 1. 主治医に「軽作業可」と判断されると休業補償給付は難しくなる
- 2. 休業補償給付を受給するための3つの要件
- 2.1. 「元の仕事ができない」だけでは不十分
- 3. 「軽作業可」と判断されるとなぜ休業補償給付が問題になる?
- 3.1. 「軽作業可」という言葉だけでなく内容が重要
- 4. 裁判例①会社で実際にできる仕事まで考慮するとした東京高裁平成29年1月25日判決
- 4.1. 東京高裁が考慮するとした事情
- 5. 裁判例②軽作業ができれば「労働不能ではない」と判断した東京地裁令和5年12月6日判決
- 5.1. 東京高裁平成29年判決との違い
- 6. 近時の裁判例・行政実務は「一般的に軽作業ができるか」を重視する傾向
- 7. 会社に軽作業がなくても休業補償給付を受けられない?
- 8. 医師の「軽作業可」という意見だけで決まるわけではない
- 9. 「軽作業可」と言われたら確認しておきたいこと
- 10. 短時間だけ働く場合は休業補償給付を受けられることもある
- 11. 主治医の「軽作業可」の判断は重要だが、それだけで判断しない
- 12. 「軽作業可」と言われて休業補償給付が不安な方へ
主治医に「軽作業可」と判断されると休業補償給付は難しくなる
労災保険の休業補償給付の請求に際して、主治医が「軽作業なら可能」と判断している場合、休業補償給付は不支給となる可能性が高いです。
もっとも、「軽作業なら可能」という判断のみで、機械的に不支給が決まるわけではありません。実際に、どの程度働けるのかなど、個別の事情が問題になります。
休業補償給付は、労働ができないときに支給されます。「労働ができない」とは、労災事故前と同じ仕事ができないことを意味するのではなく、一般的に働けない状態を意味するとされています。したがって、軽作業によって症状が悪化しない場合は、休業補償給付の給付対象にならないとされています。
休業補償給付を受給するための3つの要件
労災で休業補償給付を受給するには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
今回、問題になるのは要件②の「労働することができない」です。

休業補償給付の他の要件については、以下の記事を参照
「元の仕事ができない」だけでは不十分
たとえば、
- 重量物を持つ仕事はできない
- 長時間、立っていられない
- 自動車の運転ができない
という状態であっても、座ってする軽作業はできるのではないか?という問題が出てきます。
「軽作業可」と判断されるとなぜ休業補償給付が問題になる?
主治医が、
- 「重量物の運搬は不可だが、座って行う作業なら可能」
- 「右手を使わない軽作業なら可能」
- 「短時間勤務であれば可能」
などと判断した場合、全面的に働けない状態ではないのでは?という問題が生じます。
労災保険の実務上は、軽作業に就いても症状の悪化が認められない場合などは、原則として休業補償給付の対象となりません。
「軽作業可」という言葉だけでなく内容が重要
主治医が「軽作業なら可能」と判断していることは、主治医からではなく、労基署の担当者から聞くことが多いと思います。つまり、伝聞なわけです。
軽作業といっても、
- 何時間働けるのか?
- 立ち仕事はできるのか?
- 重量物を持つ場合は何kgまでなのか?
- 患部を使えるのか?
- 連続勤務が可能なのか?
- 通勤が可能なのか?
など、主治医が、どの程度の仕事ならできると判断しているのか?は分かりません。したがって、主治医に、何ができて、何ができないのか?を具体的に明らかにしてもらう必要があります。
裁判例①会社で実際にできる仕事まで考慮するとした東京高裁平成29年1月25日判決
この裁判例は、「労働できない」という意味は、これまで説明してきたとおりです。ただ、その判断に当たり、「この労働者が、元の会社でどんな仕事をできるのか?」まで考慮すると判断しています。
東京高裁が考慮するとした事情
「労働できない」かどうかの判断に当たって、考慮するとした事情は、以下のとおりです。
たとえば、
建設現場の作業員が現場作業はできない。しかし会社には事務作業のポストも仕事もない。というケースで、
座ってできる軽作業ならできる状態だからといって、休業補償給付を否定していいのか?という問題意識に基づいている判決といえます。

この裁判例の考え方なら、軽作業ができる状態か?だけじゃなく、その会社で本当に働けるのか?まで見ることになるんだ。
裁判例②軽作業ができれば「労働不能ではない」と判断した東京地裁令和5年12月6日判決
東京地裁令和5年12月6日判決は、休業補償給付にいう「労働することができない」について、疾病前の仕事ができなくても、一定の労働が可能になれば一般的な労働不能ではなく、少なくとも軽作業が可能なら「労働することができない」とはいえない、という考え方を示した判決です。

この裁判例の考え方は、その会社が本当に働けるか?などは関係なく、一般的に判断することになるんだ。
東京高裁平成29年判決との違い
| 東京高裁平成29年1月25日 | 東京地裁令和5年12月6日 | |
| 基本的な視点 | 一般的な労働能力が基本 | 一般的な労働能力を重視 |
| 従前の仕事 | 考慮する | できなくても決定的ではない |
| 労働契約 | 考慮する | 基本的に重視しない |
| 会社に軽作業があるか | 考慮する | 基本的に重視しない |
| 軽作業が可能な場合 | 休業補償給付を受給できる可能性あり | 原則として労働不能とはいえない |
近時の裁判例・行政実務は「一般的に軽作業ができるか」を重視する傾向
確認できる行政実務や近時裁判例を見る限り、②の裁判例の考え方に近いものが目立ちます。
したがって、現在の実務を前提にすると、主治医から「軽作業可」と判断された場合には、その時点以降の休業補償給付について不支給となる可能性を念頭に置く必要があります。
会社に軽作業がなくても休業補償給付を受けられない?
軽作業ならできる状態にまで回復したが、実際に、会社に従事できる軽作業がない場合、休業補償給付は受給できるのでしょうか?
東京高裁平成29年判決の考え方なら会社の具体的状況も判断材料になります。一方、東京地裁令和5年判決や行政実務のように「一般的な労働能力」を重視すると、会社が軽作業を用意できないことと、労働者本人が医学的に働けないことは別問題ということになります。
つまり、会社にできる仕事がないからといって、休業補償給付が当然に出るわけではありません。「会社に仕事がない」のと「身体的・医学的に働けない」は同じではないのです。
医師の「軽作業可」という意見だけで決まるわけではない
休業補償給付を支給するかどうかを最終的に判断するのは主治医ではなく、労働基準監督署長です。日頃、患者である被災労働者と接している主治医の意見は、非常に重要です。しかし、主治医が「軽作業なら可能」と判断したからといって、自動的に休業補償給付が不支給になるわけではありません。
医師が治療上、就労を禁止・制限していたかどうかなども休業の判断材料とされています。労働保険審査会の裁決例でも、医師による安静指示や就労禁止・制限などが「療養のため労働することができない」かを判断する要素として考慮されています。
「軽作業可」と言われたら確認しておきたいこと
労基署の担当者から主治医が「軽作業なら可能」と言っていると言われた場合、以下のようなことを確認しておきましょう。
- 主治医が想定している「軽作業」とは具体的に何か?
- 勤務可能な時間に制限はあるか?
- 禁止されている動作はあるか?
- 通勤は可能か?
- 軽作業をすると症状が悪化するおそれはないか?
- 一部就労や短時間勤務が可能なのか?
- 会社に実際に担当可能な業務があるか?
「軽作業なら可能」という抽象的なままにしておかないことが重要です。
短時間だけ働く場合は休業補償給付を受けられることもある
主治医のいう「軽作業」が1日3、4時間・週2,3日の時短勤務なら可能という場合は、休業補償給付を受けられる可能性があります。
休業補償給付の要件の「労働できない」は、労働の全部不能だけではなく、一部不能を含みます。典型例は、午前中に通院して午後から勤務したような場合、会社から平均賃金の60%以上の賃金を受取っていなければ、休業補償給付を受けられます。
つまり、「フルタイムでは働けないが、一部なら働ける」=必ず休業補償給付が全部なくなる、というわけではありません。
主治医の「軽作業可」の判断は重要だが、それだけで判断しない

じゃあ、「軽作業可」って言われたら、やっぱり休業補償給付は厳しくなるんだね…

そうだね。現在の実務ではかなり重要な判断材料になるよ。ただ、軽作業といっても内容は人によって全然違う。
どんな仕事ならできるのか、どんな制限があるのかまで確認することが大切なんだ。

会社に軽作業がないから休んでる、ってだけでは足りないこともあるんだ。

うん。「今までの仕事ができない」ことと、労災保険上の「労働することができない」は必ずしも同じじゃないんだよ。
「軽作業可」と言われて休業補償給付が不安な方へ
仕事中のケガや病気で休業していても、回復が進むと主治医から「軽作業は可能」と判断されることがあります。
その場合、労働基準監督署から休業補償給付を支給できないと判断されることがありますが、どの程度の作業が可能なのか、どのような就労制限があるのかなど、確認すべき事情はケースによって異なります。
また、「元の仕事には戻れない」「会社には軽作業がない」という事情だけで、休業補償給付を受けられるとは限りません。
法律事務所エソラでは、労災事故によるケガの状態、主治医の診断内容、これまでの仕事内容などを確認したうえで、休業補償給付についてご相談をお受けしています。
「軽作業可と言われたけれど、本当に休業補償給付が打ち切られるのか」
「労基署から休業補償給付は難しいと言われた」
といった場合は、一度ご相談ください。

労災の不安、ひとりで抱え込まなくて大丈夫です
仕事中のケガ、後遺障害、会社への損害賠償請求など、状況を整理するところから弁護士が伺います。
「初回相談無料」「大阪・淡路駅前」「事前予約で夜間・土日祝も相談可能」

