労災の解雇制限と打切り補償の関係を判断した最高裁判決を紹介します。
業務上災害には解雇制限がある
①労基法上、使用者の無過失責任としての災害補償が規定されています(労基法75条以下)。労災保険から給付を受けると、使用者は、補償責任を免れます(労基法84条1項)。
②業務上災害の場合、解雇制限があり、使用者は労働者を解雇できません(労基法19条1項)。使用者が労基法81条の打切り補償を支払えば、解雇制限はなくなります(労基法19条1項但書)。
労基法の規定は?
前述のように、解雇制限について規定している労基法19条は、使用者が81条の規定により打切り補償を支払うことを解雇制限の除外事由としています。
そして、打切り補償について規定している労基法81条は、「75条の規定によって補償を受ける労働者」と規定しています。75条は療養補償の規定で、使用者が費用を負担することを義務付けています。
労基法の規定を文言通りに解釈すると、労災保険から療養補償給付を受けて治療中の労働者が、3年経過しても治療が終了していない場合、使用者が打切り補償を支払ったとしても、解雇制限の除外事由に当たらないとうことになりそうです。
この場合に解雇制限の除外事由に当たるのか?が、争われたのが、最高裁平成27年6月8日判決(判例タイムズ1416号56頁)。
原審の判断
原審の東京高裁は、労基法の文言どおり、解雇制限は除外されないと判断しました。その理由は、次の2つです。
①労基法81条が労災保険の療養補償給付について触れていない。
②労基法84条は、労災保険から給付を受けた場合、使用者の災害補償義務を免除するにとどまり、支払ったとみなすとは規定していない。
労災保険の療養補償給付を受けて治療中の労働者は、労基法81条の「75条の規定によって補償を受ける労働者」には当たらず、使用者が打切り補償を支払っても、解雇できないことになります。
最高裁の判断
最高裁は、労災保険の療養補償給付を受けて治療中の労働者に対して、使用者が打切り補償を支払った場合は、解雇制限は除外されると判断しました。
労災保険に基づく給付が行われている場合は、使用者の災害補償は、実質的に行われているといえること。使用者の負担で療養補償給付を受けている場合と労災保険とで別に扱う理由がないこと。打切り補償が支払われても、労災保険から療養補償給付を受けれること。
以上のことから、労災保険で治療を受けている労働者も「75条の規定によって補償を受ける労働者」に当たり、使用者が打切り補償を支払えば、解雇制限は除外されます。
最高裁判決を受け、厚労省も、労災保険の療養補償給付を受けている場合でも使用者が打切り補償を支払えば、解雇制限の除外事由に当たるという通達を出しています(平成27年6月9日基発0609号)。
差戻審の判断
解雇制限の除外事由になるというだけで、必ず解雇できるというわけではありません。解雇に客観的に合理的な理由と社会通念上相当性が必要です。
本件では、労働者の労務提供の不能、労働能力の喪失が客観的な合理的理由に当たり、解雇までの間に業務上の疾病の回復のための配慮を全く欠いていという特段の事情はないので、社会通念上の相当性を欠くとはいえないとして、解雇は有効と判断しています。