労災保険ではなく、労働基準法上の災害補償を取上げます。
労基法の災害補償
労災事故が発生した場合、使用者である会社は、労基法上、災害補償を行う義務を負っています。
災害補償は、労基法の第8章に規定があります。労基法は、業務上の負傷・疾病・障害・死亡について、使用者の補償責任を定めています。
そんな労基法上の災害補償のポイントは、次のとおりです。
①無過失責任である
民法と異なり、使用者の無過失責任です。労働者は、使用者の故意・過失を立証する必要はありません。「業務上」であることを立証すれば足ります。
②実損額を填補するわけではない
金銭給付の場合、平均賃金をもとに算定された定率的な補償が行われます(労基法76条等)。労働者の実際の損害が、填補されるわけではありません。
③罰則等で実効性を確保している
民法の不法行為であれば、賠償義務者の不履行に対し、罰則はありません。しかし、災害補償は、行政指導や罰則(労基法119条1項1号)により、実効性が制度上は確保されています。
災害補償の補償内容
労基法上、使用者に義務付けられている補償には、次のものがあります。
①療養補償、②休業補償、③打切り補償、④障害補償(分割補償を含む)、⑤遺族補償(分割補償を含む)、⑥葬祭料
災害補償から労災保険へ
法律上は、労基法の災害補償は、労災補償の基本です。しかし、現実には、ほとんど機能していません。災害補償は、①使用者に支払い能力がなければ補償されないこと、②使用者の資力等も踏まえ、必要最低限の補償なので、水準が低いという問題がありました。
労災保険法は、制定当初は、労基法と同じ内容・同じ水準の補償しか規定がありませんでした。しかし、数度の改正を経て、適用対象、給付内容・水準ともに拡大し、現在、労災補償の基本は労災保険が担っています。
労災保険との関係
災害補償事由について、労災保険に基づき労基法の補償に相当する給付が行われた場合、使用者は、補償責任を免れます(労基法84条2項)。では、労基法の災害補償には意味はないかというと、限定的に機能する場面があります。
労災保険の休業補償給付は、4日間の待期期間が設けられています(労災保険法14条1項)。この待期期間については、労基法の災害補償として使用者に支払義務があります。