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時間外労働と損害賠償(労災の損害賠償)


市立学校の教師が時間外労働を行ったことについて、損害賠償請求が認められるか?を判断した最高裁判決を紹介します。

京都市事件(最高裁平成23年7月12日判決)

 市立小学校又は中学校の教師が、勤務時間外に職務に関連する事務等に従事していた場合に、上司である校長に、心身の健康を損なうことがないよう注意すべき義務に違反があったか?が問題になった事案です。

 具体的な被害は発生しておらず、労災や安全配慮義務違反そのものではありません。しかし、判旨の中で電通事件最高裁判決を引用するなど、共通する部分があるため、紹介します。

事案の概要

 京都市立の小学校又は中学校の教諭である被上告人らが、平成15年4月から12月までの間(ただし、8月を除く。)、時間外勤務を行ったところ、これは、義務教育諸学校等の教育職員に原則として時間外勤務をさせないものとしている「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(平成15年法律第117号による改正前のもの。)及びこれに基づく「職員の給与等に関する条例」(平成16年京都府条例第19号による改正前のもの。)の規定に違反する黙示の職務命令等によるものであり、また、各学校の設置者である上告人は被上告人らの健康保持のため時間外勤務を防止するよう配慮すべき義務に違反したなどと主張して、上告人に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償等を請求した。

 給特法及びこれに基づく給与条例の規定では、京都府の公立の義務教育諸学校等の教育職員で、市町村立学校職員給与負担法(平成16年法律第49号による改正前のもの)1条又は2条に規定する職員に該当し、管理職員に該当しないなど所定の要件を満たす者の勤務条件について、次のとおりの特例が定められている。

 (1)教育職員には、給料月額の100分の4に相当する額の教職調整額を支給する。教職調整額は、諸手当等の計算上給料とみなす。

 (2)教育職員には、時間外勤務手当及び休日勤務手当を支給しない。

 (3)教育職員には、原則として時間外勤務をさせないものとし、これをさせる場合は、生徒の実習に関する業務など所定の四つの業務のいずれかに従事する場合で、臨時又は緊急にやむを得ない必要があるときに限り、かつ、その健康及び福祉を害しないように考慮しなければならない。

 被上告人らは、本件期間中、上告人の設置する小学校又は中学校の教育職員(教諭)であった。各人の勤務する学校は、被上告人X1がA小学校、同X2がB中学校、同X3がC中学校である。各人の勤務時間は、月曜日から金曜日までの5日間において、被上告人X1が午前8時40分から午後4時40分まで(午後4時40分から午後5時25分まで休憩時間)、同X2及び同X3が午前8時25分から午後4時25分まで(午後4時25分から午後5時10分まで休憩時間)であった。

 被上告人X1は、小学5年の学級(児童数36名)の担任であり、1週間の受持ち授業時限数は合計26時限であった。

  被上告人X1は、勤務校が京都市教育委員会から研究発表校に指定されたことに伴いその研究主任としての活動を行ったほか、新規採用者の支援指導に当たり、上記研究発表とも関連する年間110時間に及ぶ総合学習の準備において中心的役割を担った。平成15年6月下旬の14日間及び同年12月上旬の8日間における職務等の状況は,おおむね第1審判決別紙「原告X1勤務表1・2」記載のとおりであり、上記期間中、職務に関連する事務等で勤務時間外に行ったものの時間数は合計で約70時間50分であった。

 被上告人X2は、中学3年の学級(生徒数39名)の担任であり、1週間の受持ち授業時限数は合計19時限(国語15時限、総合学習2時限、学級活動及び道徳各1時限)であった。

  被上告人X2は、担任する学級の生徒の関係で児童自立支援施設への出張や家庭訪問を行うなどしたほか、養護施設指導部長及び生徒指導部長としての活動や、ワンダーフォーゲル部の顧問としての生徒の引率等の活動も行っていた。退校時刻はおおむね午後6時30分頃であり、下校指導のため午後7時から午後8時頃までパトロールを行うこともあった。授業の空き時間には校内パトロールも行っていたため、教材研究、プリント作成、テスト採点などは放課後又は自宅で行わざるを得ない状況であった。平成15年6月下旬の14日間及び同年12月上旬の14日間における職務等の状況は、おおむね第1審判決別紙「原告X2勤務表1・2」記載のとおりであり、上記期間中,職務に関連する事務等で勤務時間外に行ったものの時間数は合計で約86時間30分であった。

 被上告人X3は、中学3年の音楽の教科担任であり、1週間の受持ち授業時限数は合計22時限(音楽18時限、総合学習2時限、学級活動及び道徳各1時限)であった。

  被上告人X3は、勤務校が京都市教育委員会から研究発表校に指定されたことに伴い、その研究発表を冊子にまとめる作業を行った。音楽の授業や期末テスト用の独自の教材の作成や事前の準備、吹奏楽部の顧問としての生徒への指導等により、退校時刻は平均して午後8時頃であり、吹奏楽部の顧問としての生徒への指導は休日に及ぶこともあった。平成15年6月下旬の14日間及び同年12月上旬の14日間における職務等の状況は,おおむね第1審判決別紙「原告X3勤務表1・2」記載のとおりであり、上記期間中、職務に関連する事務等で勤務時間外に行ったものの時間数は合計で約101時間40分であった。

 本件期間中、A小学校、B中学校及びC中学校の各校長は、それぞれ、被上告人X1、同X2及び同X3に対し、授業の内容や進め方、学級の運営等を含めて個別の事柄について具体的な指示をしたことはなく、また、被上告人らを含めた各学校の教育職員に対し、書面又は口頭で時間外勤務を命じたことはなかった。

最高裁の判断

 最高裁は、以下のように、校長に、心身の健康を損なうことがないよう注意すべき注意義務違反はなかったと判断しました。

 本件期間中、被上告人らはいずれも勤務時間外に職務に関連する事務等に従事していたが、勤務校における上司である各校長は、被上告人らに対して時間外勤務を命じたことはない上、被上告人らの授業の内容や進め方、学級の運営等を含めて個別の事柄について具体的な指示をしたこともなかったというのである。そうすると、勤務校の各校長が被上告人らに対して明示的に時間外勤務を命じてはいないことは明らかであるし、また、黙示的に時間外勤務を命じたと認めることもできず、他にこれを認めるに足りる事情もうかがわれない。

 したがって、勤務校の各校長は、本件期間中、教育職員に原則として時間外勤務をさせないものとしている給特法及び給与条例に違反して被上告人らに時間外勤務をさせたということはできないから、上記各校長の行為が、国家賠償法1条1項の適用上、給特法及び給与条例との関係で違法の評価を受けるものではない。

 使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の上記注意義務の内容に従ってその権限を行使すべきものである。この理は、地方公共団体とその設置する学校に勤務する地方公務員との間においても別異に解すべき理由はないから、以下、この見地に立って検討する。

 被上告人らは、本件期間中、いずれも勤務時間外にその職務に関連する事務等に従事していたというのであるが、上記のとおり、これは時間外勤務命令に基づくものではなく、被上告人らは強制によらずに各自が職務の性質や状況に応じて自主的に上記事務等に従事していたものというべきであるし、その中には自宅を含め勤務校以外の場所で行っていたものも少なくない。他方、原審は、被上告人らは上記事務等により強度のストレスによる精神的苦痛を被ったことが推認されるというけれども、本件期間中又はその後において、外部から認識し得る具体的な健康被害又はその徴候が被上告人らに生じていたとの事実は認定されておらず、記録上もうかがうことができない。したがって、仮に原審のいう強度のストレスが健康状態の悪化につながり得るものであったとしても、勤務校の各校長が被上告人らについてそのようなストレスによる健康状態の変化を認識し又は予見することは困難な状況にあったというほかない。これらの事情に鑑みると、本件期間中、被上告人らの勤務校の上司である各校長において、被上告人らの職務の負担を軽減させるための特段の措置を採らなかったとしても、被上告人らの心身の健康を損なうことがないよう注意すべき上記の義務に違反した過失があるということはできない。


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