労基法の災害補償に関する最高裁判決を紹介します。
伸栄製機事件(最高裁昭和41年12月1日判決)
労基法に基づいて使用者が行う災害補償(75条以下)と慰謝料との関係、履行遅滞に陥る時期、打切補償の請求権の有無を判断した最高裁判決です。
最高裁の判断
3つの論点に対する最高裁の判断は、次のとおりです。
①災害補償と慰謝料との関係
本件災害補償金から慰謝料額を控除することなく、上告人に支払を命じたことは正当であると、最高裁は判断しています。
労働者に対する災害補償は、労働者の被った財産上の損害の填補のためにのみなされるのであって、精神的損害の填補の目的をも含むものではないから、加害者たる第三者が支払った慰謝料が使用者の支払うべき災害補償の額に影響を及ぼさないからである。
②療養補償・休業補償が履行遅滞に陥る時期
最高裁は、使用者の補償債務は、それぞれの補償事由が生じた月の末日の経過によって、履行遅滞に陥ると判断しました。
労働基準法75条に基づく療養補償を使用者が行なうべき時期については、同法に別段の規定はないが、同条の趣旨からいって、療養補償の事由が発生すれば遅滞なく補償を行なうべきものと解され、そして、労働基準法施行規則39条によれば、療養補償は毎月一回以上行なうべき旨規定されているから、使用者の補償債務は、少なくとも、当該補償の事由の生じた月の末日にその履行期が到来し、同日の経過とともに履行遅滞に陥るものと解するのが相当である。
労働基準法76条に基づく休業補償の履行期についても、同法に別段の規定はないが、この種の補償の性質上、通常の賃金支払日に補償金の支払を行なうべきものと解され、そして、労働基準法施行規則39条によれば、休業補償もまた毎月一回以上行なうべき旨規定されているから、使用者の補償債務は、少なくとも、当該休業期間の属する月の末日の経過とともに遅滞に陥るものと解するのが相当である。
③打切補償の請求権
労働者が使用者に対して打切補償を請求できるか?について、最高裁は、労働者から請求することはできないと判断しました。。
打切補償は、被災労働者の療養の開始後3年を経過した後、使用者の意思によって行なわれるものであるから、使用者が打切補償を行なう旨の意思を表示しないかぎり、被災労働者から当然にこの種の補償を請求しうるものでないことは、同条の解釈上疑いを容れないところである。