建設業は、高所作業時の墜落・転落、重機による挟まれ、転倒など労災事故の多い職種です。さらに、労災事故が重傷化しやすい職種です。会社に安全配慮義務違反がある場合、労災保険とは別に、会社に損害賠償請求できる可能性があります。
- 1. 労災保険だけで大丈夫?
- 2. 労災保険と損害賠償の違い
- 2.1. 労災保険
- 2.1.1. 労災保険の特徴
- 2.2. 損害賠償
- 2.3. 労災保険と損害賠償は併用できる
- 2.3.1. 労災保険と損害賠償
- 3. 建設業で問題になりやすい安全配慮義務
- 3.1. 物理的危険
- 3.1.1. 物理的危険の例
- 3.2. 教育・マニュアル不足
- 3.2.1. 教育・マニュアル不足の例
- 3.3. 作業環境
- 3.3.1. 作業環境の危険の例
- 3.4. 労務管理
- 3.4.1. 労務管理不全の例
- 4. 建設業で安全配慮義務が問題になるケース
- 4.1. 足場からの転落事故
- 4.2. 重機との接触・挟まれ事故
- 4.3. 下請作業員の事故
- 5. 損害賠償で請求できる内容
- 6. 会社に損害賠償請求するための証拠
- 6.1.1. 会社に損害賠償請求するために必要な証拠の例
- 7. 建設業で労災事故に遭われた方へ
労災保険だけで大丈夫?

「高いところでの作業って、見てるだけで足がすくむよ…
落ちたらどうなっちゃうんだろ…ヘルメットしてても、助からないこともあるって聞いたし…」

「建設の現場は危険が他業種より段違いだからね。
転落・崩落・熱中症・重量物・重機…ひとつ間違えたら命にかかわることもある。」

「労災は出るかもしれないけど…それだけで生活って立て直せるの?」

「建設業の事故は、労災だけでは補えない損害が大きくなりがちなんだ。
そこでポイントになるのが会社の安全配慮義務。
もし十分な安全対策をしていなければ、会社に損害賠償を請求できるよ。」
労災保険と損害賠償の違い
| 労災保険 | 会社への損害賠償 | |
| 目的 | 迅速かつ公正な保護のため必要な補償を行う | 被った損害の賠償 |
| 条件 | 業務中のケガ又は通勤途中のケガ | 会社に過失(安全配慮義務違反)がある場合 |
| 休業損害 | 平均賃金の60% (特別支給金を含めて80%) | 100% (労災保険の休業補償給付は控除) |
| 慰謝料 | 支給されない | 請求可能 |
労災保険
労災保険は、仕事中のケガ又は通勤途中のケガに対して必要な補償をする保険です。以下のような特徴があります。
労災保険の特徴
①無過失責任:会社に過失がなくても労災保険の給付を受けれる
②補償額の定率化:損害全てが補償されない
③慰謝料が支給されない
損害賠償
会社に安全配慮義務違反がある場合は、労災保険とは別に、会社に損害賠償請求できます。
会社は、労働契約上の信義則に基づく義務として、労働者の生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法5条)。この義務を安全配慮義務といいます。安全配慮義務の内容は、作業環境の整備、安全装置の設置、教育、休憩、健康管理など多岐にわたります。
運送業では、教育不足や長時間労働をさせていたことが安全配慮義務として問題になることが多いです。
労災保険と損害賠償は併用できる
労災事故の発生に会社の安全配慮義務違反がある場合、被災した労働者は、労災保険と損害賠償をどちらも請求できます。通常は、労災保険の給付を受けた後、労災保険でカバーされない部分を会社に損害賠償請求するという流れになります。
労災保険と損害賠償
①労災保険でカバーされる部分:治療費、休業損害・後遺障害による逸失利益の一部
②労災保険でカバーされない部分:休業損害・後遺障害による逸失利益の一部、慰謝料
建設業で問題になりやすい安全配慮義務
建設業で安全配慮義務が問題になるのは、以下のようなケースです。
物理的危険
物理的危険の例
高所作業(足場・屋根・はしご・鉄骨)
落下物事故(工具・資材)
重量物の手運び・玉掛け
クレーン・バックホー等の重機接触
教育・マニュアル不足
教育・マニュアル不足の例
高所作業のKY(危険予知)活動を形骸化
安全帯着用の不徹底
熱中症対策の未徹底
重機周囲の立入禁止ルールが曖昧
作業環境
作業環境の危険の例
足場の強度不足
暑熱環境で休憩・給水なし
夜間工事の照度不足
労務管理
労務管理不全の例
人手不足で危険作業を1人作業させる
長時間労働で注意力低下
新人への不適切な配置
建設業で安全配慮義務が問題になるケース
建設業で会社の安全配慮義務違反が問題になるケースを紹介します。
足場からの転落事故
20代男性の鳶職が足場から転落し、骨折した。工期が遅れており、雨天決行で作業指示が出た。本来設置すべき手すりが一部外れており、親綱も不十分だった。会社は「気をつけて作業しなかった本人の不注意だ」と責任を否定。
転落防止のための設備に不備があり、会社の安全配慮義務違反が認められた。
重機との接触・挟まれ事故
40代男性の土木作業員がバックホーの旋回範囲内で作業中、死角に入ってしまい接触。誘導員(合図者)が配置されていなかった。会社は「立ち入り禁止区域に入ったほうが悪い」と責任を否定。
重機稼働範囲内への立入禁止措置、誘導員の配置を怠ったとして、会社の安全配慮義務違反が認められた。
下請作業員の事故
孫請け会社の50代男性の作業員が、現場全体の安全管理不備(開口部の蓋が開いていた)により落下し骨折した。直接の雇用主には、多額の損害賠償を支払う能力がない。
下請け・孫請け会社の従業員が、現場で元請会社から指揮・監督を受けていたり、元請会社が管理する設備・工具等を使用している場合、元請会社に対し安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が可能。
損害賠償で請求できる内容
会社への損害賠償で請求できる損害は、以下のような労災保険でカバーされない損害です。
| 主な損害 | 注意点 |
| 休業損害 | 休業補償給付の受給分は請求できない |
| 後遺障害による逸失利益 | 障害補償給付の受給分は請求できない |
| 入通院慰謝料 | 労災保険では支給されない |
| 後遺障害による慰謝料 | 労災保険では支給されない |
介護が必要な重篤な後遺障害が残った場合は、将来の介護費や家屋改造費が損害として請求できます。
会社に損害賠償請求するための証拠
会社に損害賠償請求するためには、会社に安全配慮義務違反があったこと証明する必要があります。多くの証拠は、労災保険の請求の際に提出した証拠と共通します。
会社に損害賠償請求するために必要な証拠の例
現場写真(足場・重機配置・安全帯フックの有無)
作業計画書
安全衛生責任者の点検記録
熱中症対策の記録
作業日報・シフト
監視カメラ映像
元請・下請の指揮命令関係の資料
建設業で労災事故に遭われた方へ
高所作業、重機、有害物質など建設業の仕事は、常に危険と隣り合わせです。ひとたび事故が起きれば、重傷化しやすく、労災保険ではカバーできない損害が発生します。
会社に「安全配慮義務違反」があれば、労災保険とは別に、会社に対して慰謝料や逸失利益などの損害賠償請求が可能です。
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