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労災の特別支給金と損益相殺②


損害賠償請求において、労災の特別支給金が損益相殺の対象になるか?を判断した最高裁判決を紹介します。

改進社事件(最高裁平成9年1月28日判決)

 短期滞在の在留期間で我が国に入国した外国人が、在留期間経過後も不法に残留して就労し、労災事故により後遺障害が残った事案です。逸失利益の算定が問題になった事案です。

 この判決は、労災の特別支給金の損益相殺の可否についても判断しています。労災に関係する特別支給金の損益相殺の可否についてのみ、最高裁の判断を紹介します。

事案の概要

 上告人は、パキスタン回教共和国の国籍を有する者であり、昭和63年11月28日、我が国において就労する意図の下に、同共和国から短期滞在(観光目的)の在留資格で我が国に入国し、翌日から被上告会社に雇用され、在留期間経過後も不法に残留し、継続して被上告会社において製本等の仕事に従事していたところ、平成2年3月30日に本件事故に被災して後遺障害を残す負傷をしたものであり、その後も、国内に残留し、同年4月19日から同年8月23日までの間は別の製本会社で就労し、更にその後は、友人の家を転々としながらアルバイト等を行って収入を得ているが、出入国管理及び難民認定法によれば、最終的には退去強制の対象とならざるを得ないのであって、上告人について、特別に在留が合法化され、退去強制を免れ得るなどの事情は認められないというのである。

最高裁の判断

 最高裁は、特別支給金は、損益相殺の対象にはならないと判断しました。

 労働者災害補償保険特別支給金支給規則に基づく休業特別支給金、障害特別支給金等の特別支給金の支給は、労働者災害補償保険法に基づく本来の保険給付ではなく、労働福祉事業の一環として、被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであり、使用者又は第三者の損害賠償義務の履行と特別支給金の支給との関係について、保険給付の場合のような調整規定(同法64条、12条の4)もない。このような保険給付と特別支給金との差異を考慮すると、特別支給金が被災労働者の損害を填補する性質を有するということはできず、被災労働者が労働者災害補償保険から受領した特別支給金をその損害額から控除することはできないと解するのが相当である。これと異なり、上告人が労働者災害補償保険から支給を受けた特別支給金合計35万3,787円を上告人の財産的損害の額から控除した第一審及び原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわなければならない。


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