飲食業は転倒・火傷・刃物による労災事故によるケガの危険のある職種です。会社に安全配慮義務違反がある場合、労災保険とは別に、会社に損害賠償請求できる可能性があります。
- 1. 労災保険だけじゃない
- 2. 飲食業の現場には、どんな危険が潜んでいるのか?
- 2.1.1. 飲食業に特有の危険
- 3. 労災保険だけでは不十分な理由
- 3.1. 労災保険
- 3.1.1. 労災保険の特徴
- 3.2. 損害賠償
- 3.3. 労災保険と損害賠償は併用できる
- 3.3.1. 労災保険と損害賠償
- 4. 飲食業で問題になりやすい安全配慮義務
- 4.1.1. 飲食業で問題になりやすい安全配慮義務の例
- 5. 飲食業で安全配慮義務が問題になるケース
- 5.1. 清掃不備による転倒事故
- 5.2. 教育不足とワンオペによる重度火傷
- 5.3. 人手不足による過労とパワハラ
- 6. 損害賠償で請求できる内容
- 7. 会社に損害賠償請求するための証拠
- 7.1.1. 会社に損害賠償するための証拠の例
- 8. 飲食業で労災事故に遭われた方へ
労災保険だけじゃない

「飲食店って、ほんと一瞬でケガするよね。
忙しい時間帯とか、足元も見ないで動いちゃって…」

「そうだね。飲食店は危険なものが日常の中に当たり前にある職場なんだ。」

「この前も、揚げ物の油がはねて火傷しちゃった人がいて…
でも、人が足りなくて休めなくて、そのまま働いてたみたい。」

「それはつらいね。
実は、会社の責任になることもあるんだよ。」

「えっ…労災保険だけじゃなくて?」

「うん。労災とは別に、安全配慮義務っていう考え方がある。
会社は危険な働かせ方をさせたらダメなんだ。」
飲食業の現場には、どんな危険が潜んでいるのか?
飲食業には、以下のような特有の危険があります。
飲食業に特有の危険
高温物(油・鍋・フライヤー)
低温物(冷凍庫・冷蔵庫)
刃物(包丁・スライサー)
濡れた床による転倒
混雑した動線
忙しい時間帯の無理な作業
飲食業は、構造的に労災事故が起きやすい職種です。
労災保険だけでは不十分な理由
飲食店での仕事中に火傷や転倒でケガをした場合、労災保険から①療養補償給付、②休業補償給付、③障害補償給付などの給付を受けられます。しかし、労災保険では、被災した労働者の損害を全てカバーできません。
| 労災保険 | 会社への損害賠償 | |
| 目的 | 迅速かつ公正な保護のため必要な補償を行う | 被った損害の賠償 |
| 条件 | 業務中のケガ又は通勤途中のケガ | 会社に過失(安全配慮義務違反)がある場合 |
| 休業損害 | 平均賃金の60% (特別支給金を含めて80%) | 100% (労災保険の休業補償給付は控除) |
| 慰謝料 | 支給されない | 請求可能 |
労災保険
労災保険は、仕事中のケガ又は通勤途中のケガに対して必要な補償をする保険です。以下のような特徴があります。
労災保険の特徴
①無過失責任:会社に過失がなくても労災保険の給付を受けれる
②補償額の定率化:損害全てが補償されない
③慰謝料が支給されない
損害賠償
会社に安全配慮義務違反がある場合は、労災保険とは別に、会社に損害賠償請求できます。
会社は、労働契約上の信義則に基づく義務として、労働者の生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法5条)。この義務を安全配慮義務といいます。安全配慮義務の内容は、作業環境の整備、安全装置の設置、教育、休憩、健康管理など多岐にわたります。
運送業では、教育不足や長時間労働をさせていたことが安全配慮義務として問題になることが多いです。
労災保険と損害賠償は併用できる
労災事故の発生に会社の安全配慮義務違反がある場合、被災した労働者は、労災保険と損害賠償をどちらも請求できます。通常は、労災保険の給付を受けた後、労災保険でカバーされない部分を会社に損害賠償請求するという流れになります。
労災保険と損害賠償
①労災保険でカバーされる部分:治療費、休業損害・後遺障害による逸失利益の一部
②労災保険でカバーされない部分:休業損害・後遺障害による逸失利益の一部、慰謝料
飲食業で問題になりやすい安全配慮義務
飲食業で問題になりやすい安全配慮義務は、以下のような場面です。飲食業特有の危険に対応しています。
飲食業で問題になりやすい安全配慮義務の例
水や油による「滑りやすさ」→放置していた、滑りにくい安全靴の不支給
火や刃物を扱う「危険性」→教育・指導不足
人手不足による「長時間労働・教育不足」→労務管理不全
飲食業で安全配慮義務が問題になるケース
飲食業では、以下のようなケースで安全配慮義務が問題になります。
清掃不備による転倒事故
揚げ物メインの定食屋にパート勤務する50代・女性。床は常に油で滑りやすい状態だった。店長に「滑り止めマットが劣化している」と伝えていたが、経費削減で放置されていた。結果、転倒して大腿骨を骨折した。会社は、「足元に気をつけて歩かなかった本人の不注意」と責任を否定。
床が滑りやすく転倒の危険があったにもかかわらず、マット交換などの措置を怠ったとして会社の安全配慮義務違反が認められる。
教育不足とワンオペによる重度火傷
入店3日目の居酒屋バイトの20代・男性。マニュアルも研修もないまま、ワンオペでフライヤーの油交換を命じられた。手順を誤り、高温の油を浴びて腕に重い火傷を負った。会社は、「常識的に考えればわかるはず。手順を守らなかったのが悪い」と責任を否定。
危険業務にも関わらず、十分な安全教育を行わず、未熟なスタッフを一人にした配置・管理体制に不備があり、会社の安全配慮義務違反が認められる。
人手不足による過労とパワハラ
慢性的な人手不足のラーメン店に勤務する40代・男性。1日14時間労働が常態化し、エリアマネージャーから「売上が悪いのはお前の気合いが足りない」とLINEや口頭で連日叱責された。うつ病を発症し、厨房で倒れた。会社は、「本人のメンタルが弱かっただけ」と責任を否定。
長時間労働を放置し、精神的負荷過多に対する健康管理を怠った会社に安全配慮義務違反が認められる。
損害賠償で請求できる内容
会社への損害賠償で請求できる損害は、以下のような労災保険でカバーされない損害です。
| 主な損害 | 注意点 |
| 休業損害 | 休業補償給付の受給分は請求できない |
| 後遺障害による逸失利益 | 障害補償給付の受給分は請求できない |
| 入通院慰謝料 | 労災保険では支給されない |
| 後遺障害による慰謝料 | 労災保険では支給されない |
介護が必要な重篤な後遺障害が残った場合は、将来の介護費や家屋改造費が損害として請求できます。
会社に損害賠償請求するための証拠
会社に損害賠償請求するためには、会社に安全配慮義務違反があったこと証明する必要があります。多くの証拠は、労災保険の請求の際に提出した証拠と共通します。
会社に損害賠償するための証拠の例
厨房・ホール・床の状態の写真
フライヤー・調理設備
シフト表(ワンオペ・人手不足)
マニュアル・教育記録
防犯カメラ映像
会社とのLINE・メールの記録
同僚の証言
飲食業で労災事故に遭われた方へ
「忙しいランチタイムに油が跳ねた」「床がヌルヌルで転んで骨折した」…飲食業に労災事故の多い職種です。
多くの人が「自分の不注意だから」や「労災保険が降りるからいいや」と思いがちです。しかし、会社に「安全配慮義務違反」があれば、労災保険とは別に、会社に対して慰謝料や逸失利益などの損害賠償請求が可能です。
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