労災保険における「治ゆ」について,行政の考えについて取上げました(労災保険における治ゆ参照)が,裁判所も基本的に,同様に考えています。

最高裁平成2年12月4日判決

 労災保険における治ゆの意義が問題となった事案です。最高裁は原審の判断を是認し,上告を棄却しているので,最高裁としての判断は述べていません。

事案の概要

 Xは,大工として雇用され,昭和48年9月12日,同工事現場へ通勤のため乗車していた乙のマイクロバスが後続のマイクロバスに追突され,受傷し,外傷性頸腕症状と診断された。

 Xの療養補償給付については,昭和54年8月1日から昭和56年2月23日までの間は支給されたが,それ以降については不支給となった。(昭和54年7月31日以前については,自賠責保険により治療を受けていた。)また,休業補償給付については,昭和52年1月12日から昭和56年2月23日までの間は支給されたが,それ以降については不支給となった。

原審(名古屋高裁平成元年6月21日判決)

 原審の名古屋高裁は,治ゆの意義について次のように判断しています。さらに,治ゆかどうかの判断の方法にも言及しています。

 被災後15年,症状固定とされた後7年を経過した現在も同様の治療が継続されているだけであり,障害自体の改善の傾向は見られない。Xの症状は,本質的な治療効果を期待し得ない状態にあることは明らかである。

 患者が外来を訪れ,症状を訴えて治療を求めれば,医師としては,その症状に対応した治療を試みる義務があるから,対処療法的治療が継続していること自体は症状固定の判断に反するものではない。

 労災保険法に基づく保険給付を行うか否かは,医師の診断結果を参考としつつも,同法の趣旨に則って法的に評価すべきものであって,主治医が治療の継続を必要であると診断したとしても,これに拘束される理由はなく,その他の医師の意見や鑑定の結果あるいは療養の経過等を全体的に評価して判断することが許される。

 労災保険法に基づく他院での受診命令にも正当な理由なく応じない場合に,労基署長が,診療内容や傷病の経過を調査し,担当医師のほか労災医員等の意見を求めるのはむしろ当然の措置であって,その結果に基づいて,主治医の診断に反する認定をしても,差別であるとは到底言い難い。