無機の酸・アルカリによる疾病の労災認定を取上げます。
無機の酸・アルカリによる疾病
労基法施行規則別表第1の2第4号第1は、業務上疾病として、「厚生労働大臣の指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)にさらされる業務による疾病であって、厚生労働大臣が定めるもの」を例示列挙している。
同規定による厚生労働大臣の定めは、厚生労働省告示の「労働基準法施行規則の規定に基づく厚生労働大臣が指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)並びに厚生労働大臣が定める疾病」に規定されています。
無機の酸・アルカリによる疾病についても、上記の告示に、①化学物質、②症状又は障害、③症状又は障害の内容が規定されています。
主な無機の酸・アルカリによる疾病
以下、無機の酸・アルカリに疾病として規定されている①化学物質と②症状又は障害をいくつか挙げておきます。
化学物質 | 症状又は障害 |
アンモニア | 皮膚障害、前眼部障害、気道・肺障害 |
塩酸(塩化水素を含む) | 皮膚障害、前眼部障害、気道・肺障害、歯牙酸蝕 |
硝酸 | 皮膚障害、前眼部障害、気道・肺障害、歯牙酸蝕 |
水酸化ナトリウム | 皮膚障害、前眼部障害、気道・肺障害 |
硫酸 | 皮膚障害、前眼部障害、気道・肺障害、歯牙酸蝕 |
無機の酸・アルカリによる疾病は、化学物質への接触・吸入等により急性に生じることが多いとされています。
皮膚障害、前眼部障害、気道・肺障害は、いずれの化学物質に共通に見られる症状・障害です。液体の皮膚への付着、液体・蒸気等の眼への付着・侵入、ガス・蒸気等の大量吸入等によって、生じます。
これらの化学物質は、強い刺激性・腐蝕性を有するため、症状・障害が重篤なことが少なくありません。
なお、長期低濃度ばく露による疾病として、塩酸、硫酸等による症状・障害があります。これらは、重篤化するものは少ないとされています。
労災の認定
無機の酸・アルカリによる疾病の労災認定に際しては、症状・障害の発生に至った経緯について、以下の事項を調査し、業務によるものではないという特段の反証がない限り、労災と認定されます。
無機の酸・アルカリによる疾病の労災認定に際しての調査事項
①日時
②場所
③作業内容
④取扱化学物質
⑤ばく露の態様・程度
塩化水素、硝酸又は硫酸のガス・蒸気への長期低濃度ばく露により、歯牙酸蝕が生じることがあります。歯牙酸蝕については、通達があります。