労災保険の休業補償給付の支給に関して、労働者に賃金請求権がない場合にも支給されるのか?を判断した最高裁判決を紹介します。
浜松労基署長事件(最高裁昭和58年10月13日判決)
休日、出勤停止の懲戒処分等のため雇用契約上、労働者に賃金請求権が発生しない場合でも、労災保険の休業補償給付が支給されるか?が争われました。
事案の概要
A社に雇用されていた上告人は、昭和50年4月8日、作業従事中に同僚から暴行を受けて傷害を負い、その治療のため同月9日から21日までの間休業し、その間、有給休暇として賃金が支払われた同月9日の1日分を除いては賃金の支払を受けなかった。
上告人が上記期間につき労災保険法に基づき休業補償給付請求をしたのに対し、被上告人は、同52年2月1日、上告人の傷害は業務上のものと認められないとの理由をもって、休業補償給付の支給をしない旨の決定をした。
上告人は、上記決定に対し審査請求をしたが、棄却され、更に再審査請求をしたが、これも棄却されたので、上記決定の取消しを求めて本訴を提起した。
他方、A社は、上告人の負傷事故の発生に関し、同50年4月10日、上告人に対し、同日から向う10日間の出勤停止を課し、その他の関係者に対しても、懲戒を課した。
原審の判断
原審は、以下のように判断し、休業補償給付請求権が発生しないと判断しました。
上告人が休業補償給付請求をしている同50年4月9日から21日までの期間のうち、9日は有給休暇として賃金が支払われており、10日から12日までの間は休業補償給付の対象とならないものとし、13日、19日、20日はA社の公休日であり、14日から18日まで及び21日の6日間は上告人がA社から負傷事故の発生を理由とする懲戒として出勤を停止されていた日であって賃金請求権が発生していないから休業補償給付の対象となる賃金の喪失はなく、休業補償給付請求権は発生しない。
最高裁の判断
最高裁は、原審の判断を覆し、雇用契約上、賃金請求権が発生しない場合であっても、休業補償給付の支給を受けることができると判断しました。
休業補償給付は、労働者が業務上の傷病により療養のため労働不能の状態にあって賃金を受けることができない場合に支給されるものであり、この条件を具備する限り、その者が休日又は出勤停止の懲戒処分を受けた等の理由で雇用契約上賃金請求権を有しない日についても、休業補償給付の支給がされると解するのが相当である。