仕事のストレスで、うつ病や適応障害になってしまった。
長時間労働やパワハラなど、原因は仕事にあると思うのに、「精神障害の労災認定は難しい」と聞いて、申請をためらっていませんか?
- 仕事が原因なのに、どうして労災が認められないの?
- パワハラの証拠がないと、申請しても無駄?
- 認められなかったら、自分が弱かっただけということ?
精神障害の労災認定が難しいのは、精神障害を発病したことに加えて、仕事による強いストレスが原因で発病したことを証明する必要があるからです。
しかし、労災認定が難しいことと、申請しても認められないことは同じではありません。
この記事では、精神障害の労災認定が難しい5つの理由と、認定されるために重要なポイント、労災申請を諦める前にできることを解説します。
- 1. 精神障害の労災認定は難しい?
- 1.1. 精神障害の労災認定率は約28%
- 1.2. 仕事中のケガとは認定の難しさが違う
- 2. 精神障害が労災と認められる3つの要件
- 3. 精神障害の労災認定が難しい5つの理由
- 3.1. 理由① 精神障害の発病と仕事との因果関係を判断する必要がある
- 3.2. 理由② 仕事のストレスが「強い」と認められる必要がある
- 3.3. 理由③ 精神障害を発病した時期を特定するのが難しい
- 3.4. 理由④ パワハラや長時間労働などを証明する証拠が不足している
- 3.5. 理由⑤ 仕事以外のストレスや過去の精神障害も検討される
- 4. 精神障害の労災認定で誤解されやすい3つのこと
- 4.1. パワハラだけでは労災にならない?
- 4.2. 発病の6か月以上前のパワハラは考慮されない?
- 4.3. 会社が労災と認めなければ申請できない?
- 5. 精神障害の労災申請を諦める前にできること
- 5.1. ①仕事上の出来事を時系列で整理する
- 5.2. ②仕事上の出来事を裏付ける資料を確認する
- 5.3. ③ 主治医に仕事の状況と症状の経過を正確に伝える
- 5.4. ④ 一人で判断せず、労災の専門家に相談する
- 6. 労災が認められなかった場合はどうすればいい?
- 7. 精神障害の労災認定は難しくても、最初から諦める必要はありません
精神障害の労災認定は難しい?

仕事のストレスで適応障害になったんだけど、精神障害の労災認定は難しいって聞いて…申請しても無駄なのかな?

精神障害の労災認定が簡単ではないのは確かだよ。でも、難しいからといって、最初から諦める必要はないよ。

どうして、精神障害の労災認定は難しいの?

仕事中の事故によるケガと違って、精神障害の場合は、原因や発病時期を判断することが難しいからなんだ。まずは、実際の認定状況を見てみよう。
精神障害の労災認定率は約28%
厚労省が公表している令和7年度(2025年度)の精神障害の労災補償状況は、以下のとおりです。
| 区分 | 件数 |
| 労災請求件数 | 4,958件 |
| 決定件数 | 3,839件 |
| 支給決定件数 | 1,082件 |
| 認定率 | 28.2% |
令和7年度の精神障害の労災認定率は、3割を下回っています。もっとも、この数字は、精神障害の労災請求全体の結果です。個々の事案で認定される可能性を、そのまま示しているわけではありません。
仕事中のケガとは認定の難しさが違う
仕事中に転倒して骨折したような典型的な労災事故の場合、事故の発生日時・場所、ケガの状態などから、仕事とケガとの因果関係は、比較的簡単に判断できるケースがあります。
一方、うつ病・適応障害などの精神障害は、病気の発症原因が一つとは限りません。仕事のストレスだけではなく、既往歴、家族関係、人間関係など私生活上の要因が複合的に絡み合って、発症することも珍しくありません。そのため、精神障害の発症と仕事とを切り分けるのが難しいのです。
また、長時間労働やパワハラ、仕事上の責任の増加など仕事によるストレスが原因であっても、精神障害の労災認定基準を満たす強いストレスだと認められなければ、労災とは認定されません。
精神障害が労災と認められる3つの要件
精神障害の労災認定が難しい理由を理解するためには、労災の認定基準を知っておく必要があります。
精神障害が労災と認定されるには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
3つの要件の内、特に重要なのは、②発病前おおむね6か月間の間に、仕事による強い心理的負荷(ストレス)が認められることです。精神障害を発病し、仕事上のストレスがあったとしても、そのストレスが認定基準上の強い心理的負荷(ストレス)に該当しなければ、原則として労災とは認められません。

精神障害の労災認定については、以下の記事も参照
うつ病・適応障害は労災になる?精神障害の認定基準と申請のポイント
仕事のストレスでうつ病・適応障害になった場合、労災が認められることがあります。精神障害の労災認定の3つの要件、長時間労働・パワハラ・セクハラ・カスハラの評価、証拠が少ない場合の対応や申請のポイントを解説します。
精神障害の労災認定が難しい5つの理由
精神障害の労災認定が難しいのは、主に5つの理由があります。

理由① 精神障害の発病と仕事との因果関係を判断する必要がある

心療内科の先生には、仕事のストレスが原因だと思うって話しているよ。それでも労災は難しいの?

主治医の診断や意見は大事だよ。ただ、それだけ労災と認定されるわけじゃないんだ。
うつ病や適応障害などの精神障害を発病していることは、労災認定の第一歩です。ただし、医師から精神障害と診断されただけで、労災と認められるわけではありません。
労災認定では、精神障害の発病に仕事がどのように関係していたのかが判断されます。たとえば、主治医が仕事のストレスを発病原因の一つと考えていても、労働基準監督署では、実際の業務内容、職場で起きた出来事、その後の状況などを調査し、認定基準に照らして判断します。
医学的に精神障害を発病していることと、労災保険の認定要件を満たすことは、区別して考えなければならないのです。
理由② 仕事のストレスが「強い」と認められる必要がある
精神障害の労災認定で、大きな壁となるのが、仕事による強い心理的負荷(ストレス)が認められるか?です。
精神障害の労災認定基準は、業務による心理的負荷を「強」「中」「弱」の3段階で評価します。この評価は、本人がどれほどつらく感じたかという主観ではありません。職種、職責、年齢、経験などが類似する労働者が、同じ状況に置かれた場合に、一般的にどの程度の心理的負荷を受けるかという観点から評価します。
上司から厳しい叱責を受けて精神障害を発病した場合でも、叱責の内容、頻度、継続期間などによって、心理的負荷の評価が異なります。一方、人格を否定するような言動が執拗に繰り返された場合などは、心理的負荷が「強」と評価されることがあります。
本人にとって非常につらかった出来事でも、認定基準上の心理的負荷が「強」と評価されるとは限らないのです。この点が、精神障害の労災認定を難しくする大きな理由です。
なお、長時間労働、パワハラ、仕事量の急増など、複数の出来事がある場合には、それらを総合的に評価することがあります。一つの出来事だけで「強」と評価されなくても、複数の出来事を合わせて「強」と評価される可能性があります。
理由③ 精神障害を発病した時期を特定するのが難しい
精神障害の労災認定では、原則として、発病前おおむね6か月の仕事上の出来事を評価します。したがって、精神障害をいつ発病したのか?が重要になります。しかし、精神障害は、骨折などのケガとは異なり、発病した日が明確ではないことがあります。
たとえば、以下のような経緯をたどったとします。
- 4月:仕事量が増える
- 5月:不眠や食欲不振が始まる
- 6月:集中力が低下し、仕事を休む日が増える
- 7月:連日、長時間の残業を行う
- 8月:心療内科を初めて受診し、うつ病と診断される
8月の心療内科の初診日が、うつ病の発病日になるとは限りません。診療記録や症状の経過などをもとに、医学的に発病時期が判断されます。
発病時期によって、評価対象となる仕事上の出来事が変わることがあるため、認定結果にも影響する可能性があります。発病日が6月と認定されれば、原則、7月の長時間労働は発病後の出来事として評価の対象となりません。
理由④ パワハラや長時間労働などを証明する証拠が不足している

上司に何度もひどいことを言われたんだ。でも、録音なんてしていなくて…

突然の出来事を録音するのは難しいよね。録音がなくても、ほかの資料から当時の状況を確認できることがあるよ。
精神障害の労災認定では、仕事上の出来事が実際にあったのか、その内容や程度がどのようなものだったのかが重要です。
しかし、パワハラやセクハラなどは、第三者がいない場所で行われることも少なくありません。また、長時間労働があっても、タイムカードに実際の労働時間が記録されていない場合があります。
証拠が不足していると、労働基準監督署による調査でも、本人が訴える出来事の内容を十分に確認できない場合があります。
もっとも、録音やタイムカードがなければ、必ず労災が認められないわけではありません。パワハラ自体の証拠はなくても、会社への相談記録、メール、LINE、同僚の証言などが、出来事を裏付ける資料になることもあります。
理由⑤ 仕事以外のストレスや過去の精神障害も検討される
精神障害の労災認定では、仕事以外のストレスや本人の個体側要因も検討されます。
たとえば、家庭内の問題や身近な人との死別などがあった場合には、その出来事が発病に与えた影響が検討されることがあります。
また、過去にうつ病などを発病していた場合には、その病歴や症状の経過なども判断材料になります。
もっとも、仕事以外にもストレスがあったことや、精神障害の既往歴があることだけで、労災が否定されるわけではありません。仕事以外の要因によって発病したと医学的に明らかであるかどうかなどを、慎重に判断します。
なお、2023年9月の認定基準改正により、すでに発病していた精神障害が仕事による強い心理的負荷によって自然経過を超えて著しく悪化した場合に、悪化した部分について労災が認められる要件が緩和されました。

詳しくは、以下の「精神障害の労災認定基準の改正-2023年9月1日~-」を参照
過去に精神障害の治療歴がある方も、最初から労災申請を諦める必要はありません。
精神障害の労災認定で誤解されやすい3つのこと
精神障害の労災認定で、誤解しやすい点をまとめました。
パワハラだけでは労災にならない?
パワハラの内容や程度によっては、心理的負荷が「強」と評価され、労災と認められる可能性があります。
たとえば、人格や人間性を否定するような精神的攻撃が執拗に行われた場合などです。
パワハラによる労災認定では、単に「パワハラがあった」と説明するだけでなく、具体的な言動、繰り返された回数、会社の対応などを整理することが重要です。
また、パワハラと長時間労働、業務量の急増などが重なっていた場合は、複数の出来事を総合的に評価する必要があります。

以下の「パワハラによるうつ病は労災になる?」も参照
発病の6か月以上前のパワハラは考慮されない?
精神障害の労災認定では、発病前おおむね6か月の出来事が評価対象です。
しかし、パワハラやセクハラなどが継続して行われる出来事については、6か月より前から始まり、発病前おおむね6か月の間にも続いていた場合は、開始時からの一連の行為が評価対象になります。
たとえば、1年以上にわたって上司から繰り返し暴言を受けていた場合、6か月より前の出来事が全て無視されるわけではありません。

会社が労災と認めなければ申請できない?
精神障害の労災申請をしようと思っても、会社が協力してくれない場合があります。しかし、労災に当たるかどうかを判断するのは、会社ではなく、労働基準監督署です。
会社が「仕事が原因ではない」と主張しているからといって、労災申請ができなくなるわけではありません。会社が事業主証明に協力しない場合でも、労働者本人が労災保険給付を請求することは可能です。

以下の「会社が労災の手続きをしてくれない」も参照
会社が労災の手続きをしてくれない
労災事故が発生したのにもかかわらず、会社が労災の申請をしてくれないことがあります。会社が労災の申請をしない場合、労働者はどうすればいいのか?を解説します。
精神障害の労災申請を諦める前にできること

認定が難しい理由はわかったけど、わたしの場合は証拠も少ないし、やっぱり無理なのかな…

まだ、そう決める必要はないよ。まずは、仕事で何があったのか、いつ頃から体調が悪くなったのかを整理してみよう。

①仕事上の出来事を時系列で整理する
精神障害の労災認定では、発病前の仕事上の出来事と、発病までの経過を整理することが重要です。
具体的には、長時間労働、パワハラ、業務量の増加、配置転換などについて、いつ、どこで、誰がいて、どのようなシチュエーションで、どのような出来事があったのかを整理します。
併せて、不眠、食欲不振、気分の落ち込みなどの症状がいつ頃から現れたのかを確認します。
最初から正確な日付がわからなくても、覚えている範囲で整理してみましょう。後から、メールや診療記録などと照らし合わせて確認することができます。
②仕事上の出来事を裏付ける資料を確認する
精神障害の労災認定では、以下のような資料が証拠となります。
| 仕事上の出来事 | 資料の例 |
| 長時間労働 | タイムカード、PCログ、メール送信履歴、シフト表 |
| パワハラ | 録音、メール、LINE、相談記録、同僚の証言 |
| 業務量の増加 | 業務指示メール、担当業務の一覧、引継ぎ資料 |
| 会社の対応 | ハラスメント相談記録、会社からの回答、面談記録 |
| 症状の経過 | 診療記録、家族とのメッセージ、当時の日記 |
直接的な証拠がなくても、複数の資料を組み合わせることで、当時の状況を裏付けられる場合があります。たとえば、パワハラ自体の証拠はなくても、同僚や家族などに相談したメール・LINEの記録や会社にハラスメントの相談をした記録などからパワハラの事実を裏付けられる場合があります。
③ 主治医に仕事の状況と症状の経過を正確に伝える
精神障害の労災認定では、主治医の意見や診療記録も重要です。
主治医に仕事上の出来事や症状の経過が十分に伝わっていない場合、診療記録に、発病原因を検討するための情報が記載されていないこともあります。主治医には、仕事上の出来事や症状が現れた時期を、可能な範囲で正確に伝えることが大切です。
なお、精神障害の発病時期や業務との関係は、最終的には医学的な知見や調査結果に基づいて判断されます。
④ 一人で判断せず、労災の専門家に相談する
精神障害の労災認定は、複数の出来事が関連していたり、発病時期がはっきりしなかったりすることがあります。そのような場合、本人だけで認定の可能性を判断するのは難しいことがあります。
また、労災申請のために、つらかった出来事を何度も思い出すこと自体が、大きな負担になる場合もあります。
弁護士に相談することで、認定基準に照らして重要となる出来事や証拠を整理し、申請に向けた対応を検討することができます。
ただし、申請の準備を急ぐあまり、治療や休養を後回しにする必要はありません。まずは、心身の回復を大切にしてください。
労災が認められなかった場合はどうすればいい?
精神障害の労災申請をしたものの、労働基準監督署から不支給決定を受けることもあります。
しかしながら、不支給決定が出た場合でも、そこで必ず手続きが終わるわけではありません。不支給決定に不服がある場合は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をすることができます。
審査請求は、原則として処分があったことを知った日の翌日から3か月以内という期限があります。不支給決定の理由を確認し、認定基準への当てはめや、事実認定に問題がないかを検討することが重要です。

審査請求については、以下の「労災と認められなかった…どうすればいい?」も参照
精神障害の労災認定は難しくても、最初から諦める必要はありません

労災認定が難しいのは、わたしの苦しさが足りないからじゃなくて、認定基準に沿って仕事との関係を判断する必要があるからなんだね。

うん。認定が難しいことと、あなたが経験したつらさは別の問題だよ。
まずは、どんな出来事があったのか、確認できるところから整理していこう。
精神障害の労災認定が難しい主な理由は、次の5つです。
- 精神障害の発病と仕事との因果関係を判断する必要がある
- 仕事のストレスが「強い」と認められる必要がある
- 精神障害の発病時期を特定するのが難しい
- 仕事上の出来事を証明する証拠が不足している
- 仕事以外のストレスや過去の精神障害も検討される
労災認定が難しいからといって、申請する前から諦める必要はありません。仕事上の出来事を整理し、認定基準に照らして検討することで、労災と認められる可能性があります。
そして、労災が認められるかどうかと、あなたが仕事で経験した苦しさは、別の問題です。
法律事務所エソラでは、精神障害の労災に関するご相談をお受けしています。
長時間労働やパワハラなどが原因で、うつ病や適応障害を発病し、労災申請を迷っている方は、ご相談ください。
今ある資料や、話せる範囲の事情から、一緒に整理していきましょう。

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