過労死・過労自殺で会社に安全配慮義務違反がある場合、会社に損害賠償請求できます。では、そもそも、会社はどのような安全配慮義務を負っているのでしょうか?
過労死・過労自殺の安全配慮義務
長時間・過重な労働をさせたことによる過労死・過労自殺の損害賠償のリーディングケースとなったのは、電通事件最高裁判決です。
判決の詳細は、以下の過労死・過労自殺の損害賠償請求を参照
電通事件最高裁判決を踏まえて、使用者が負っている安全配慮義務の具体的な義務内容を見ていくことにします。なお、基本的には、過労死・過労自殺の両方に妥当すると考えられます。
適正な労働条件を設定する義務
最高裁は、業務の量等を適切に調整するための措置を採る義務、負担を軽減させるための措置を採る義務があると解しています。
具体的には、労働者が過重な労働が原因で健康を害し、過労死することがないように、労働時間・休憩時間・休日・労働密度・休憩場所・人員配置・労働環境等の適切な労働条件を設定する義務だと解されます。
業務の量を調整したり、負担を軽減するためには、当然、個々の労働者の労働時間を把握している必要があります。したがって、使用者には、労働時間を含む労働条件等の業務の実情を把握する義務を負っていると解すことができます。
健康管理義務
労働者の健康状態を把握し、健康管理を行い、健康障害を早期に発見する義務を使用者は負っていると解されます。具体的には、必要に応じた健康診断・ストレスチェックを含むメンタルヘルス対策の実施等を行うことになります。
労働者の健康状態を把握するために、上司と面談するということが行われることがあります。しかし、単に、面談をしただけでは、労働者の負担を軽減したとはいえず、義務を尽くしたことにはならないと解されます。
適正労働配置義務
労働者が健康障害を起こしている又は健康障害を起こす可能性がある場合は、症状に応じて、休暇の取得や勤務軽減・作業の転換・就業場所の変更など労働者の健康保持のため適切な措置を講じる義務を使用者は負っていると解されます。
労働者が休日や休暇を取得するために、業務量を調整し、人員を増加する措置を講じなければならない場合は、使用者は、労働者からの要請がなくても、そのような措置を講じる義務を負っていると解されます。そのため、使用者は、労働条件等の業務の実情を把握する義務を負っていると解すことができます。
看護・治療義務
上記の義務はいずれも、過労による疾患を発症させないための義務です。上記の義務とは別に、過労による疾患を発症した労働者に対して、適切な看護を行い、適切な治療を受けさせる義務を使用者は負っていると解されます。もちろん、通常は、使用者自身が治療をすることはできないので、病院に搬送するといったことが義務の内容になります。