労働者の自己保健義務と使用者に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償との関係を取上げます。
自己保健義務とは?
労働者が自分の健康を管理して、その保持を図る義務を自己保健義務といいます。労務を提供する義務を負う労働者は、信義則上、労働契約に付随して、自己保健義務を負うと解されています。
自己保健義務の内容
労働者の自己保健義務の具体的な義務としては、以下のようなものがあります。
①健康診断受診義務
労働者は、使用者の健康診断実施義務(安衛法66条)に対応する義務として、使用者が実施する健康診断を受診する義務があります。
②自覚症状の申告義務
使用者には、健康診断で自覚症状の有無を検査することを義務づけられています(安衛則44条)。しかし、自覚症状は本人から申告がなければ、その有無はわかりません。
そこで、使用者が早期に適切な措置を取るために、労働者には自覚症状の申告義務があると解されています。
③私生活上の健康管理義務
私生活上の健康管理は、労働者が自分の責任で配慮すべきと考えられます。
④健康管理措置への協力義務
使用者が健康管理措置を実施すべき場合、労働者が協力しなければ目的を達成することができません。労働者には、使用者が実施する健康管理措置に協力する信義則上の義務があると解されています。
⑤療養専念義務
労働者が療養のために休業している場合、労働者は療養に専念しなければなりません。療養中に疾病を悪化させたり、回復を妨げたりすることは、自己保健義務違反になります。
自己保健義務と安全配慮義務違反に基づく損害賠償
使用者の安全配慮義務違反に基づく損害賠償において、労働者が自己保健義務を怠っている場合、労働者に過失があるとして過失相殺がなされることがあります。
下級審の裁判例では、必要な医師の診療を受診していない場合、自覚症状の申告を怠った場合、私生活上の自らの行動について配慮を怠った場合などで過失相殺が行われています。
自覚症状の申告に関して、精神疾患に関する情報は特にプライバシーに関わるので、労働者は具体的な傷病名まで使用者に申告する必要があるのか?という議論があります。東芝うつ病事件の最高裁判決は、労働者からの申告がない場合における過失相殺を否定しています。
東芝うつ病事件の最高裁判決の詳細は、以下の記事参照
精神障害の損害賠償(労災の判例)
精神障害による損害賠償請求において、労働者が自らの精神的健康に関する情報を会社に申告しなかったことを理由に過失相殺できるか?を判断した最高裁判決を紹介します。