会社から損害賠償を受領した後、労災保険給付にどのような影響があるかを取上げます。
損害賠償と労災保険給付
労災事故の発生について、会社に安全配慮義務違反がある場合、会社に対して損害賠償請求することができます。
会社の損害賠償と労災保険給付の関係は、損害賠償からの労災保険の控除で取上げました。ポイントは2つです。
損害賠償から労災保険給付を控除する場合のポイント
①労災保険の給付が一時金の場合は、損益相殺されます。
②年金給付の場合は、すでに支給が確定してる給付については損益相殺されます。なお、使用者は前払一時金の限度で損害賠償の支払を猶予されます。
すでに取上げたのは、損害賠償額がどうなるか?という問題です。今回、取り上げるのは、損害賠償の受領後に、労災保険の年金給付(障害補償年金、遺族補償年金)は、継続して給付を受けれるのか?という問題です。
支給調整
労災保険に相当する部分を含む損賠賠償を受領した場合、労働政策審議会の議決を経て厚労相が定める基準により、労災保険給付に相当する部分について、労災保険給付をしないことができます(労災保険法附則64条2項)。これを支給調整といいます。
条文上、支給調整は、年金給付だけではなく、休業補償給付などの一時金も対象となっています。ただ、一時金の場合、あまり問題になることはないのではないかと思います。
支給調整の対象
支給調整の対象となるのは、損賠賠償の内、労災保険給付によって填補される損害を填補する部分に限られます。
人損の損害は、①積極損害、②消極損害、③慰謝料の3つがあります。労災保険は、③慰謝料を填補しません。したがって、会社からの損賠賠償の内、慰謝料は支給調整の対象になりません。
労災保険の給付には、給付水準が定められています。要するに、労災保険は、損害の全てを填補しません。たとえば、後遺障害等級3級の障害補償年金の場合、填補率は67%とされています。したがって、労災保険でカバーされない33%分は、支給調整の対象ではありません。
なお、支給調整されるのは、現実に損害賠償の支払を受けた場合です。
支給調整の期間
支給調整が行われる期間について、9年の上限が設けられています。障害補償年金と遺族補償年金は、9年の期間は、前払一時金給付最高限度額の相当期間終了時から起算されます。
9年の期間内であっても支給調整が完了すれば、その時点から労災保険の給付は再開されます。