損害賠償から労災保険をどう控除するのか?

 労働災害について,使用者に損害賠償請求ができる場合,すでに支給を受けた労災保険は,損害賠償から控除することになります(労災保険と損害賠償の調整)。

 それでは,損害賠償からどのように控除するのか?というのが,今回の問題です。

過失相殺との先後

 労働災害の発生について,被災した労働者にも過失がある場合があります。この場合,過失相殺がなされ,損害賠償から被災労働者の過失分が差引かれます。

 では,労災保険は,過失相殺前の損害賠償から控除するのか?過失相殺後の損害賠償から控除するのか?という問題です。当然,過失相殺前に控除する方が,損害額は多くなります。

過失相殺が先

 最高裁は,まず,過失相殺を行い,その後,労災保険を控除することとしています(最高裁昭和55年12月18日判決,平成元年4月11日判決)。

費目拘束がある

 過失相殺を先に行うのですが,労災保険の控除には費目拘束があります。

 人損の損害は,①積極損害,②消極損害,③慰謝料があります。労災保険は,被災労働者の財産的損害の填補を行うものです。したがって,慰謝料は一切,支払われません。

 以上のことから,労災保険の給付を損害賠償から控除する場合に,慰謝料から差し引くことはできません。また,積極損害と消極損害間で損賠請求から差し引くこともできません。

 最高裁昭和62年7月10日判決は,労災保険の休業補償給付・傷病補償年金は,消極損害からのみ控除でき,積極損害と慰謝料からは控除できない判断しています。

遅延損害金から控除できない

 労災保険を損害賠償から控除する際に,損害賠償の元本から控除するのか?遅延損害金から控除するのか?が問題になります。これまで,最高裁の判断が分かれていましたが,大法廷判決で判断を統一しました。

最高裁平成27年3月4日大法廷判決

 遺族補償年金について,最高裁は,労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失を填補することを目的とするもので,填補の対象となる損害は,被害者の死亡による逸失利益等の消極損害と同性質であり,かつ,相互補完性があると解しました。 

 そして,損害の元本に対する遅延損害金は,債務者の履行遅滞を理由とする損害賠償債権であるから,遅延損害金を債務者に支払わせる目的は,遺族補償年金の目的とは明らかに異なり,遺族補償年金による填補の対象となる損害が,遅延損害金と同性質・相互補完性があるとはいえないと判断しました。

 以上の帰結から,遅延損害金から控除することはできないと結論付けました。