いわゆる職業がんの労災の認定を取上げます。
職業がん
労基法施行規則別表第1の2第7号は、「がん原性物質若しくはがん原性因子又はがん原性工程における業務による次に掲げる疾病」を業務上疾病として例示列挙しています。いわゆる職業がんと呼ばれるものです。
職業がんとして例示列挙されているものには、以下に挙げたものを含め23個あります。
業務上疾病として例示列挙されている主な職業がん
①石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫
②電離放射線にさらされる業務による白血病、肺がん、皮膚がん、骨肉腫、甲状腺がん、多発性骨髄腫又は非ホジキンリンパ腫
③塩化ビニルにさらされる業務による肺血管肉腫又は肝細胞がん
化学物質へのばく露と職業がん発症の因果関係
職業がんの原因・発症のメカニズムは、必ずしも厳密に解明されているわけではないとされています。
特定の化学物質等への職業的ばく露と特定のがんとの間の因果関係について、医学的に解明されたものが、職業がんとして、例示列挙されています。
しかし、疫学的研究を主体とする医学における広い分野の研究を総合的に勘案し、原因とがんとの間に因果関係が存在する蓋然性が高いと判断されたものが、因果関係があるものとして取り扱われています。
職業がんの業務起因性の判断
業務上疾病として労災と認定されるには、業務との間に相当因果関係があることが必要です。職業がんについても同様です。
しかし、職業がんの業務起因性の判断は、以下の理由で困難なことが多いとされています。
職業がんの業務起因性の判断が困難な理由
①がんが、非特異的疾患で、臨床像・病理組織像から原因が特定できない
②がんは、その原因のばく露から長期間を経て発症するので、ばく露条件等を明確に把握することが困難である
職業がんの労災認定の基本
職業がんの労災認定の基本は、以下の2つです。
職業がんの労災認定の留意事項
職業がんの労災認定に当たっては、以下の点に留意する必要があります。
ばく露条件の把握と評価
職業がんの労災認定に当たっては、職歴・ばく露を受けたがん原性物質の種類・ばく露濃度・ばく露期間その他からばく露条件と把握して評価することが、最も重要です。
ばく露の程度
ばく露濃度等のばく露の程度は、作業環境測定結果と作業工程・作業方法・作業内容・局所排気装置の設置状況・保護具の使用状況等から判断されます。
医学的資料
ばく露条件の評価に医学的な資料が用いられることがあります。たとえば、タール様物質のばく露を受けた者のガス斑(限局性毛細血管拡張症)やクロム化合物のばく露を受けた者の鼻中隔穿孔等の所見があれば、ばく露を程度が大きいことを示唆するものです。
しかし、これらの所見がないからといって、必ずしも、ばく露の程度が小さいと判断されるわけではありません。
がんの診断
職業がんの労災認定に当たっては、がんの確定診断も重要です。特に、がんの原発部位に関する診断は、重要です。
解剖が行われている場合は、病理学的な検索により、がんとその原発部位について最も信頼できる診断結果が得られます。
病理組織学的な診断結果がない場合は、臨床的な診断に基づいて、がんとその原発部位の判断を行います。この場合、主治医の診断結果だけではなく、診断の根拠となった検査結果等の把握が必要です。