労災保険の通勤災害を取上げます。
通勤災害は業務上災害ではない
労働者の通勤中の負傷・疾病・障害または死亡は、使用者の支配下の行為ではありません。そのため、業務上災害と認められていません。したがって、かつては、労災保険の対象にはなっていませんでした。
しかし、通勤が業務に必然的に伴うものであり、業務と密接に関連することから、通勤災害について保護を望む声が労働組合を中心に高まり、昭和48年12月から通勤災害も労災保険の対象となりました。
通勤災害とは?
労災保険法は、通勤災害を「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」と定義しています(労災保険法7条1項3号)。労災保険の給付対象になる通勤とは、次の3つです(労災保険法7条2項)。
通勤災害の対象となる通勤
①住居と就業場所との間の往復
②就業場所から他の就業場所への移動
③①の往復に先行し又は後続する居住間の移動
①住居と就業場所との間の往復
住居は、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所であって、本人の生活拠点をいうと解されています。通常は家族の住む所から通勤している労働者が長時間残業や早出のために別に部屋と借りている場合、家族と住む自宅と借りてる部屋の両方が住居と認められます。
就業場所とは、業務を開始し又は終了する場所をいいます。外勤業務に従事している場合は、自宅を出て最初の用務先が勤務開始場所、最後の用務先が勤務終了場所になります。
②就業場所から他の就業場所への移動
労働者が複数の職場で勤務している場合の職場間の移動です。
③①の往復に先行し又は後続する居住間の移動
単身赴任している労働者が、赴任先の住居と帰省先の住居との往復する場合が該当します。
通勤災害のその他の要件
通勤災害と認められ、労災保険給付を受けるには、次の要件を充足する必要があります。
通勤起因性
通勤災害として認められるには、生じた災害と通勤との間に相当因果が存在することが必要です。このことを通勤起因性といいます。
厚労省の通達では、通勤起因性は、通勤に通常伴う危険が具体化したことをいうとしています。典型的な例は、通勤途中の交通事故です。通勤途中に自然災害や犯罪行為に巻き込まれ負傷した場合も通勤災害と認められることがあります。
※通勤災害と通勤起因性参照
就業関連性
通勤災害は、労働者が就業に関し、住居と就業場所を往復した際に生じた災害であることが必要です(労災保険法7条2項)。そのため、労働者の移動行為が業務につくため又は業務が終了したことによって生じていることが必要です。このように、移動行為が業務と密接に関連していることが必要があることを就業関連性といいます。
※通勤災害と就業関連性参照
合理的な経路・方法
住居と就業場所との往復等が合理的な経路・方法で行われていることが必要です(労災保険法7条2項)。社会通念上合理的といえればよく、最短経路である必要はありません。
※合理的な経路・方法参照