直接的に,労災保険法上の労働者かどうかが争点になった事案ではありませんが,労災保険の適用の前提となる労働者性について判断した最高裁判決を紹介します。

関西医科大学事件(最高裁平成17年6月3日判決)

 大学病院に勤務する研修医が労働者かどうか争われた事件です。直接的には,研修医が給付を受けていた奨学金と副直手当と最低賃金の差額を賃金として請求した事件です。

 なお,この研修医が過労死したことについて,労働者であることを前提に労災認定されており,大学に対する損害賠償請求も認められています。

事案の概要

 亡A(以下「A」という。)と被上告人X1との間の子であるB(以下「B」という。)は,平成10年4月16日に医師国家試験に合格し,同年5月20日に厚生大臣の免許を受けた医師である。Bは,同年6月1日から本件病院の耳鼻咽喉科において臨床研修を受けていたが,同年8月16日に死亡した。

 本件病院の耳鼻咽喉科における臨床研修のプログラムは,2年間の研修期間を2期に分け,①第1期(1年間)は,外来診療において,病歴の聴取,症状の観察,検査及び診断の実施並びに処置及び小手術の施行を経験し,技術の習得及び能力の修得を目指すほか,入院患者の主治医を務めることを通じて,耳鼻咽喉科の診療の基本的な知識及び技術を学ぶとともに,医師としての必要な態度を修得する,② 第2期(1年間)は,関連病院において更に高いレベルの研修を行う,というものであった。

 Bは,本件病院の休診日等を除き,原則的に,午前7時30分から午後10時まで,本件病院内において,指導医の指示に従って,臨床研修に従事すべきこととされていた。

上告人は,Bの臨床研修期間中,Bに対して奨学金として月額6万円の金員及び1回当たり1万円の副直手当を支払っていた。上告人は,これらの金員につき所得税法28条1項所定の給与等に当たるものとして源泉徴収を行っていた。

最高裁の判断

 研修医は,医師国家試験に合格し,医籍に登録されて,厚生大臣の免許を受けた医師であって,医療行為を業として行う資格を有しているものであるところ,医師法16条の2第1項は,医師は,免許を受けた後も,2年以上大学の医学部若しくは大学附置の研究所の附属施設である病院又は厚生大臣の指定する病院において,臨床研修を行うように努めるものとすると定めている。この臨床研修は,医師の資質の向上を図ることを目的とするものであり,教育的な側面を有しているが,そのプログラムに従い,臨床研修指導医の指導の下に,研修医が医療行為等に従事することを予定している。そして,研修医がこのようにして医療行為等に従事する場合には,これらの行為等は病院の開設者のための労務の遂行という側面を不可避的に有することとなるのであり,病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り,上記研修医は労働基準法9条所定の労働者に当たる。

 本件病院の耳鼻咽喉科における臨床研修のプログラムは,研修医が医療行為等に従事することを予定しており,Bは,本件病院の休診日等を除き,上告人が定めた時間及び場所において,指導医の指示に従って,上告人が本件病院の患者に対して提供する医療行為等に従事していたというのであり,これに加えて,上告人は,Bに対して奨学金等として金員を支払い,これらの金員につき給与等に当たるものとして源泉徴収まで行っていたというのである。

  そうすると,Bは,上告人の指揮監督の下で労務の提供をしたものとして労働基準法9条所定の労働者に当たり,最低賃金法2条所定の労働者に当たる。