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労災の再発と認めなかった裁判例


労災の再発と認められなかった裁判例を紹介します。

大阪地裁令和3年3月17日判決

 交通事故で負傷したタクシー乗務員が、症状固定後に出現した症状が、再発に当たると主張した事案です。

 ※労災保険の再発については、以下の記事を参照してください。

労災保険と再発

労災の対象となった傷病が症状固定後に再び発症したり、悪化した場合、どのように扱われるのか?労災の再発の問題を解説します。

事案の概要

 原告は、平成22年1月17日、タクシー乗務の業務として、タクシーで追越車線を走行中、走行車線を走っていた前方車両が方向指示器を出さずに追越車線に入ってきたため、急ブレーキをかけたところ、スリップして中央の壁に衝突し、腰部を負傷した。

 原告は、同日、A病院を受診し、その後の検査・診断により「第3・第5腰椎圧迫骨折」等(旧傷病)と診断された。

 その後、原告は、旧傷病につき、B病院ほか複数の病院を受診した後、平成22年10月14日、A病院において、腰椎後方除圧手術(本件手術1)を受けた。  

 原告は、本件手術1以後もA病院で通院治療を受けていたが、平成23年9月28日、症状固定と診断された。

 原告は、旧傷病の後遺障害について、処分行政庁に対し、労災保険法に基づく障害補償給付の請求を行ったところ、処分行政庁は、平成23年11月7日、①第3・第5腰椎圧迫骨折については、「せき柱に変形を残すもの」(障害等級第11級の5)に該当し、②両下肢のしびれ・筋力低下については、圧迫骨折の神経症状とは異なる外傷による第5腰部神経根損傷によるものであり「局部にがん固な神経症状を残すもの」(障害等級第12級の12)に該当するとして、併合10級と認定し、障害補償一時金を支給した。

 原告は、平成26年11月14日から同月30日までの間、C病院において、「腰部脊柱管狭窄症」の傷病名で治療を受けた。

 また、原告は、平成26年11月21日から同月30日までの間、D病院において、「腰部脊柱管狭窄症、外傷性腰仙椎間板障害、第3腰椎圧迫骨折、第5腰椎圧迫骨折」の傷病名で治療を受けた。

 その後、原告は、平成26年12月5日、E病院を受診し、X線検査及びミエログラフィー検査の結果、「第4腰椎すべり症、腰部脊柱管狭窄症」(現傷病)と診断された。

 原告は、平成27年10月7日、E病院において、第4・第5腰椎箇所に、腰椎後方椎体固定術を受け、同月28日まで入院治療を受けた。

 原告は、平成26年12月15日、上記の各治療について、旧傷病によるものであるとして、処分行政庁に対し、療養補償給付を請求したが、処分行政庁は、再発として取り扱う要件には該当しないとして、いずれも不支給とした。

裁判所の判断

 裁判所は、以下のとおり、再発と認めませんでした。

 療養補償給付及び休業補償給付は、当該傷病が治ゆするまで支給されるものであるが、一旦治ゆしたと認定された後であっても、その傷病が自然的経過の中で再び発症する場合がある。これが業務以外の原因によるものでないと認められ、治ゆ時の状態からみて明らかに症状が悪化し、かつ、療養によってその症状が改善される見込みがあると医学的に認められるときに、これを認定実務上「再発」と呼び、治ゆしたことによって一旦消滅した労災保険法上の療養補償給付及び休業補償給付に係る権利義務関係を再び発生させるものである。

 このような再発の概念とその法的効果にかんがみれば、療養補償及び休業補償給付の支給を受けるための再発の要件としては、①現在の傷病と業務上の傷病である以前の傷病との間に医学上の相当因果関係が存在し、②以前の傷病の治ゆ時の症状に比して現在の傷病の症状が増悪しており、かつ、③現在の傷病の増悪について治療効果が期待できるものであることが必要であり、①の要件を欠き、現在の傷病の原因が業務以外にあると認められるときは、上記各支給の対象とはならないというべきである。

 原告は、平成16年事故時に既に腰部脊柱管狭窄症と診断されており、平成19年7月5日のX線検査でも第4・第5腰椎間の腰椎骨棘形成や椎間板変性所見が示されていることが認められ、これらの事実によれば、原告には本件事故前から腰部脊柱管狭窄症が存在していたということができる。

 そして、前記認定事実によれば、原告は、本件事故により第3・第5腰椎圧迫骨折を負い、本件事故直後に受診したA病院では、同圧迫骨折及び腰部脊柱管狭窄症と診断されているものの、下肢のしびれや脱力といった腰部脊柱管狭窄症による症状はなく、腰部脊柱管狭窄症については経過観察でよいとされていること、その後に通院したBでも腰部脊柱管狭窄症についての治療はされておらず、平成22年4月22日と同年6月26日のMRI検査及びCT検査でも第4・第5腰椎間の脊柱管狭窄及び第5神経根の圧迫所見に変化はなく、原告が下肢のしびれを訴えたのは本件事故から5か月以上経過した平成22年6月21日頃からであることが認められ、これらの事実によれば、腰部脊柱管狭窄症が本件事故により悪化としたということはできない。     

 さらに、本件手術1は、原告が平成22年6月21日頃から訴える下肢のしびれ等の改善を目的とした除圧手術であること、本件手術1前の平成22年10月6日のMRI検査の結果と、本件手術1から11か月が経過した平成23年9月14日のMRI画像とで、第4・第5腰椎間の脊柱管狭窄の状態に大きな変化はないことが認められ、これらの事実によれば、腰部脊柱管狭窄症が本件手術1により悪化したといえるものでもない。    

 以上によれば、原告の主張が裏付けられるとはいえない。なお、F医員及びG調査官の各意見書中には、下肢のしびれ等は本件事故による外傷性の第5腰部神経根損傷に起因するものと思われる旨の記載があるが、本件事故による外傷により腰部脊柱管狭窄を来したと述べるものではなく、後遺障害診断書をもとに外傷後腰部神経障害が存在すると述べるにとどまり、原告の主張の裏付けになるものではない。

 以上によれば、原告の上記主張はいずれも採用することができず、現傷病の腰部脊柱管狭窄症が旧傷病の範囲に含まれるとは認められない。

 平成19年7月5日のX線画像で、第4・第5腰椎間の椎体前縁でごく軽微なずれがあるものの、すべり症の診断には至らないレベルと所見されていること、本件事故直後の平成22年1月17日のXP画像でも、第4腰椎椎体のごく軽微な前方へのすべりはあるが、本件事故後初めて受診したA病院で第4腰椎すべり症の診断はされていないこと、本件事故から約7か月後の平成22年8月31日のXP画像や本件手術1の直前の同年10月13日のXP画像でも、本件事故直後と比較して第4腰椎椎体のすべりの程度に変化はないことが認められ、これらの事実によれば、本件事故により第4椎体のすべりの程度が進行したとはいえない。

 そして、本件手術1の際に椎間関節の一部が切除され、第3腰椎の椎体の高さが前後で6㎜異なる結果となったものの、本件手術1の後の平成23年7月9日のCTミエログラフィー画像、同年9月14日のMRI画像、同月28日のXP画像、平成26年11月14日のXP画像、同年12月16日のCTミエログラフィー画像のいずれも、本件手術1の前と比較して第4腰椎椎体のすべりの程度に進行はないことが認められ、これらの事実によれば、本件手術1によって第4腰椎椎体のすべりの程度が進行したといえない。

 さらに、平成22年10月13日と平成26年11月14日のXP画像を比較しても、不安定性の視点での差はないことが認められ、本件手術1によって腰部不安定性が進行したといえるものでもない。

 以上によれば、原告の主張が裏付けられるとはいえない。以上によれば、原告の上記主張はいずれも採用することができず、現傷病の第4腰椎すべり症が旧傷病の範囲に含まれるとは認められない。


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