労災の原因となる災害が第三者によって起こされた第三者行為災害を取上げます。
第三者行為災害とは?
労災保険給付の原因となる業務災害や通勤災害が、第三者の行為によって生じたものを第三者行為災害といいます。第一当事者である被災労働者に対して、第三者が損害賠償義務を負っていることが必要です。
第三者とは、労災保険関係の当事者である政府・事業主・被災労働者以外の者で、災害について損害賠償責任を負う者のことです。
直接の加害者はもちろん、民法715条の使用者責任・民法716条の注文者責任・民法717条の工作物責任・自賠法により責任を負う保険会社も第三者に含まれます。
なお、使用者が安全配慮義務違反に基づいて損害賠償責任を負う場合、使用者は第三者には当たりません。また、加害行為に起因して不法行為責任を負う加害者を第二当事者といいます。
労災保険と損害賠償との調整
労災保険は、被災労働者に生じた損失の填補のための制度です。被災労働者が加害者から損害賠償金を受領しつつ労災保険を受給すると、二重取り状態になってしまいます。そこで、労災保険と損害賠償との調整を行う必要があります。
労災保険法は、調整の方法として、求償と控除の手続を定めています。
求償
被災労働者が労災保険の給付を受けた場合、政府は第三者に対して支払った労災保険給付の額を請求します(労災保険法12条の4第1項)。これが求償です。
控除
被災労働者が加害者から先に損害賠償金を受領したときは、政府はその限度で労災保険給付をしないことができます(労災保険法12条の4第2項)。これを支給調整といいます。遺族補償年金や障害補償年金は、支給を一定期間停止する扱いが取られます。
求償・控除を行う期間
求償は、労働災害の発生から3年以内に支給事由の生じた労災保険給付で、災害発生から3年以内に保険給付を行ったものについて行います。
控除については、労働災害発生から7年以内に支給事由の生じた労災保険給付で、災害発生後7年以内に支払うべきものを限度に行います。
平成25年3月31日までに発生した労働災害については、求償と同じく控除期間も3年とされていました。しかし、賠償額が高額化していることを理由に控除期間が伸長されました。
示談と労災保険給付
被災労働者が第二当事者等に対して損害賠償請求を行い、その後に示談する場合、次の点に注意が必要です。
通常、示談においては、被害者である被災労働者は、示談書記載した示談金以外の損害賠償請求権を放棄するという清算条項が設けられます。
労災保険実務においては、第一当事者である被災労働者が、第二当事者等に対する損害賠償債務の全部又は一部を免除し、その限度で第一当事者が損害賠償請求権を喪失したときは、政府はその限度で労災保険給付を免れることになり、示談が真正に成立し、かつ、示談内容が第一当事者の第二当事者等に対する損害賠償請求権の全部の填補を目的としている場合、示談成立後、労災保険給付を行わないとされています。
したがって、示談をする際は、示談金が労災保険給付とは別に受け取るものであることを示談書にしっかりと明記する必要があります。