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元請業者に対する損害賠償請求(労災の損害賠償)


建設現場等で労災事故が発生した場合、元請業者に対して損害賠償請求することができるのでしょうか?

安全配慮義務と請負契約

 労災事故で死亡事故が多く発生している業種は、建設業・陸上貨物運送業・製造業です。建設業や製造業では請負契約が導入されていることが多く、発注者→元請業者→下請業者→孫請業者という重曹請負構造が見られます。

 末端の下請や孫請業者の労働者が労災事故で被災したり、職業病にかかった場合、その労働者と労働契約を締結している使用者に安全配慮義務違反があれば、損害賠償責任を負います。

 しかし、下請や孫請業者は、損害賠償の資力が十分でないことがあります。そこで、被災労働者としては、元請業者に損害賠償請求をしたいということになります。

元請業者に対する損害賠償請求

 建設現場では、資材、機材の調達や準備だけではなく、工事内容・工期、工事現場の安全管理や現場作業員の指揮・監督などを元請業者が事実上イニシアティブをとっていることが少なくありません。また、労働関係法令の潜脱のために、請負契約や業務委託の形式をとる偽装請負を行っているケースもあります。

 そうすると、元請業者との間に直接の雇用契約がなくても、実質的な使用従属関係または指揮命令関係が認められることがあります。

 このような場合、信義則上、元請業者の下請業者等に対する安全配慮義務を認め、元請業者に対する損害賠償請求が認められています。

使用者責任

 労災事故が発生した直接の原因が、元請業者の使用する労働者等にある場合は、元請業者は使用者責任(民法715条)に基づく損害賠償責任を負います。

不法行為責任

 元請業者が法令、慣習、条理等に基づき必要とされる労働災害防止のための注意義務を怠った場合は、元請業者は不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任を負います。

安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任

 元請業者との間に、実質的な使用従属関係、直接的または間接的な指揮監督関係があれば、元請業者は安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負います。

 裁判例では、次のような要素を総合的に判断して、実質的な使用従属関係があったか?を判断しています。

使用従属関係の有無の判断のための考慮要素

①現場事務所の設置、係員の常駐・派遣

②作業工程の把握、工程に関する事前打合せ、届出、承認、事後報告

③作業方法の監督、仕様書による点検、調査、是正

④作業時間、服装、作業人員の規制

⑤現場巡視、安全会議、現場協議会の開催・参加

⑥作業場所の管理、機械・設備・器具・保護具・材料等の貸与、提供

⑦管理者の表示

⑧事故発生の場合の処置、届出

⑨専属的下請関係かどうか?

⑩元請業者の組織的な一部に組込まれているかどうか?

元方事業者責任

 同じ場所で行う事業の仕事の一部を下請業者(関係請負人)に請負わせている事業者を元方事業者といいます(安衛法15条1項)。元方事業者は、関係請負人とその雇用する労働者が安衛法違反をしないよう、必要な指導を行い、違反している場合は是正のため必要な指示を行う義務があります。

 この義務に元請業者が違反し、そのことが原因で労災事故が発生した場合、元請業者は損害賠償責任を負います。

特定元方事業者責任

 元方事業者のうち、建設業、造船業の元方事業者を特定元方事業者といいます。上記の元方事業者の義務に加え、労働災害を防止するたに必要な措置を行う義務を負います(安衛法30条1項)。

 この義務に元請業者が違反し、そのことが原因で労災事故が発生した場合、元請業者は損害賠償責任を負います。


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