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熱中症の安全配慮義務(労災の損害賠償)


熱中症の安全配慮義務に関して、厚労省の通達を紹介します。

職場における熱中症

 熱中症は、高温多湿な環境下で、体内の水分・塩分バランスが崩れたり、体内の調節機能が破綻するなどして、発症する障害の総称です。

 以下のような症状が、出現します。

熱中症の症状

めまい・失神・筋肉痛・筋肉の硬直・大量の発汗・頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感・意識障害・痙攣・手足の運動障害・高体温等

 屋外だけでなく、屋内でも発症することがあります。また、重篤な後遺症が残ったり、死亡することもあります。

 厚労省が公表した「令和4年職場における熱中症による死傷災害の発生状況」によると、職場における熱中症による死傷者は827人でした。その内、30人が亡くなっています。

熱中症の労災認定については、以下の「熱中症の労災認定基準」を参照

熱中症の労災認定基準

労災の業務上疾病の内、熱中症の労災認定基準を解説します。

熱中症と安全配慮義務

 業務中に労働者が熱中症になった場合、使用者に安全配慮義務違反があれば、使用者は損害賠償義務を負います。

 熱中症の安全配慮義務に関して、厚労省の「職場における熱中症予防基本対策要綱の策定について」(令和3年7月26日基発726第2号)を紹介します。

 通達の内容が、直ちに安全配慮義務の内容となるわけではありません。通達の内容が、使用者の安全配慮義務の具体的内容を検討するに当たって目安となると判示している裁判例があります。

職場における熱中症予防基本対策要綱の策定について

 厚労省は、平成17年と平成21年に職場における熱中症予防のための通達を出しています。しかし、上記のとおり、職場における熱中症の死傷者は高止まりしている状況です。

 そこで、旧通達を廃止して、職場における熱中症予防基本対策要綱を策定し、熱中症予防対策の一層の推進を図ることにしました。

WBGT値(暑さ指数)の活用

 WBGT値は、暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数で、熱中症予防対策に活用されています。

 通達では、作業場所にWBGT指数計を設置する等して、WBGT値を求めることが望ましいとしています。なお、WBGT値は、環境省のWebサイトで確認することができます。

着衣による補正

 労働者は、作業中に様々な衣服を着て作業を行っています。WBGT値を把握した上で、以下のように、衣服の組合せにより補正を行います。

組合せWBGT値に加えるべき着衣補正値(℃-WBGT)備考
作業服0織物製作業服で基準となる組合せ着衣
つなぎ服0表面加工された綿を含む織物製
単層のポリオレフィン不織布製つなぎ服2ポリエチレンから特殊な方法で製造される布地
単層のSMS製不織布製のつなぎ服0SMSはポリプロピレンから不織布を製造する汎用的手法
織物の衣服を二重に着用3通常、作業服の上につなぎ服を着た状態
つなぎ服の上に長袖ロング丈の不透湿性エプロンを着用4巻付型エプロンの形状は化学薬剤の漏れから身体前面・側面を保護するように設計
フードなしの単層の不透湿つなぎ服10実際の効果は環境湿度に影響され、多くの場合、影響はもっと小さい
フードつき単層の不透湿つなぎ服11実際の効果は環境湿度に影響され、多くの場合、影響はもっと小さい
服の上に着たフードなし不透湿性のつなぎ服12
フード+1着衣組合せの種類、フードの素材を問わず、フード付きの着衣を着用する場合、フードなしの組合せ着衣の着衣補正値に加算

WBGT基準値に基づく評価

 把握したWBGT値が、以下のWBGT基準値を超え、又は超えるおそれがある場合は、冷房等により作業場所のWBGT値の低減を図る必要があります。

 また、身体作業強度の低い作業への変更、WBGT基準値より低いWBGT値の作業場所での作業への変更といった対策を取ることを求めています。

 それでも、WBGT基準値を超えるような場合は、熱中症予防対策の徹底を図り、熱中症の発症リスクの低減を図ることを求めています。

区分身体作業強度(代謝率レベル)暑熱順化者のWBGT基準値(℃)暑熱非順化者のWBGT基準値(℃)
0安静安静、楽な座位3332
1低代謝率軽い手作業(書く、タイピング、描く、縫う、簿記)
手・腕の作業(小さいペンチツール、点検、組立て、軽い材料の区分け)
腕・脚の作業(通常状態での乗り物の運転、フットスイッチ・ペダルの作業)
立位でドリル作業、フライス盤、コイル巻き、小さい電機子巻き
小さい力で駆動する機械、2.5㎞/hでの平坦な場所での歩き
3029
2中程度代謝率継続的な手・腕の作業(釘打ち、盛土)
腕・脚の作業(トラックのオフロード運転、トラクター・建設車両)
腕と胴体の作業(空気圧ハンマーでの作業、トラクター組立て、漆喰塗、中くらいの重さの材料を断続的に持つ作業、草むしり、除草、果物・野菜の収穫)
軽量な荷車・手押し車を押したり引いたりする
2.5km/h~5.5km/hでの平坦な場所での歩き、鍛造
2826
3高代謝率強度の腕・胴体の作業、重量物の運搬、ショベル作業、ハンマー作業、のこぎり作業
硬い木へのかんな掛け・のみ作業、草刈り、掘る
5.5km/h~7km/hでの平坦な場所での歩き、鋳物を掘る、コンクリートブロックを積む
重量物の荷車・手押し車を押したり引いたりする
2623
4極高代謝率最大速度の速さでのとても激しい活動、斧を振るう、階段を昇る
激しくシャベルを使ったり掘ったりする、平坦な場所を走る、7km/h以上で平坦な場所を歩く
2520

熱中症予防対策

 通達は、熱中症予防対策として、以下の5つの対策を挙げています。

①作業環境管理

 作業環境管理として、WBGT値の低減と休憩場所の整備等を挙げています。

②作業管理

 作業管理として、作業時間の短縮、暑熱順化、水分・塩分の摂取、服装等、作業中の監視を挙げています。

暑熱順化

 暑熱順化とは、暑さ、熱に慣れその環境に適応させることです。暑熱順化の有無は、熱中症の発症リスクに大きく影響します。上記のWBGT基準値も暑熱順化の有無で基準値が異なります。

 暑熱順化は、作業を行う労働者が暑熱順化してない状態から7日以上かけて熱へのばく露時間を徐々に長くしていきます。熱へのばく露が中断すると4日後に暑熱順化の顕著な喪失が始まり3~4週間後に完全に失われるとされています。

 つまり、暑熱順化は計画的に行う必要があります。特に、梅雨から夏季になる時期に、以下のような場合は、労働者が暑熱順化していないことに注意が必要です。

暑熱順化していない場合

①気温等が急に上昇した高温多湿作業場所で作業を行う場合

②新たに当該作業を行う場合

③長時間、当該作業場所での作業から離れ、その後再び作業を行う場合

③健康管理

 健康管理として、健康診断結果に基づく対応、日常の健康管理、労働者の健康状態・身体状況の確認を挙げています。

④労働衛生教育

 労働者を高温多湿作業場所で作業に従事させる場合、以下の事項について労働衛生教育を行うことを求めています。

熱中症に対する労働衛生教育

(1)熱中症の症状

(2)熱中症の予防方法

(3)緊急時の救急措置

(4)熱中症の事例

⑤救急措置

 救急措置として、病院等の緊急連絡網の作成・周知、救急措置を挙げています。


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