仕事中に熱中症になった場合、会社に損害賠償請求できる場合があります。労災認定と会社の責任の違い、安全配慮義務違反を判断するポイント、WBGT・休憩・水分補給・暑熱順化・発症後の対応、必要な証拠、労災保険との関係について解説します。
- 1. 仕事中の熱中症で会社に損害賠償請求できる?
- 2. 熱中症について会社が負う安全配慮義務とは?
- 3. 会社の安全配慮義務違反を判断する7つのポイント
- 3.1. 気温・湿度・WBGTなどの暑熱環境を把握していたか?
- 3.2. 作業時間を短縮し、十分な休憩を取らせていたか?
- 3.3. 水分・塩分を補給できる環境だったか?
- 3.4. 暑熱順化に配慮していたか?
- 3.5. 労働者の健康状態を確認していたか?
- 3.6. 熱中症の兆候を把握できる体制があったか?
- 3.7. 熱中症の発症後に適切な対応をしたか?
- 4. 熱中症による会社の責任が問題になりやすい具体例
- 5. 会社への損害賠償請求で残しておきたい証拠
- 6. 熱中症で会社に請求できる損害
- 6.1. 積極損害
- 6.2. 逸失利益
- 6.3. 慰謝料
- 6.4. 労災保険を受け取っていても損害賠償請求できる?
- 7. 「本人の自己管理の問題」と言われたら?
- 8. 熱中症で重い後遺症が残った・家族が亡くなった場合は弁護士へ
仕事中の熱中症で会社に損害賠償請求できる?
仕事中に熱中症になった場合、業務災害として労災になります。では、仕事中に熱中症になった場合、会社に損害賠償請求できるのでしょうか?
仕事中に熱中症になったからといって、当然に会社へ損害賠償請求できるわけではありません。熱中症が労災と認められることと、会社に損害賠償責任があることは別の問題です。
もっとも、会社が熱中症の危険を予測できたにもかかわらず、必要な対策を取らなかったなど、安全配慮義務に違反した場合には、労災保険とは別に会社へ損害賠償請求できる可能性があります。
熱中症について会社が負う安全配慮義務とは?
業務中に労働者が熱中症になった場合、使用者に安全配慮義務違反があれば、使用者は損害賠償義務を負います。
熱中症の安全配慮義務について参考になるのが、厚労省が「職場における熱中症予防基本対策要綱の策定について」(令和3年7月26日基発726第2号)です。さらに、2026年3月に、「職場における熱中症防止のためのガイドライン」が改定されています。
通達やガイドラインの内容が、直ちに安全配慮義務の内容となるわけではありません。しかし、通達の内容が、使用者の安全配慮義務の具体的内容を検討するに当たって、目安となると判示している裁判例があります。
会社の安全配慮義務違反を判断する7つのポイント
気温・湿度・WBGTなどの暑熱環境を把握していたか?
WBGT値は、暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数です。熱中症予防対策に活用されています。
通達では、作業場所にWBGT指数計を設置する等して、WBGT値を求めることが望ましいとしています。なお、WBGT値は、環境省のWebサイトで確認することができます。
把握したWBGT値が、WBGT基準値を超え又は超えるおそれがある場合は、冷房等により作業場所のWBGT値の低減を図る必要があります。
また、身体作業強度の低い作業への変更、WBGT基準値より低いWBGT値の作業場所での作業への変更といった対策を取ることを求めています。
それでも、WBGT基準値を超えるような場合は、熱中症予防対策の徹底を図り、熱中症の発症リスクの低減を図ることを求めています。
WBGT基準値に基づく評価
| 区分 | 身体作業強度(代謝率レベル) | 暑熱順化者のWBGT基準値(℃) | 暑熱非順化者のWBGT基準値(℃) |
| 0安静 | 安静、楽な座位 | 33 | 32 |
| 1低代謝率 | 軽い手作業(書く、タイピング、描く、縫う、簿記) 手・腕の作業(小さいペンチツール、点検、組立て、軽い材料の区分け) 腕・脚の作業(通常状態での乗り物の運転、フットスイッチ・ペダルの作業) 立位でドリル作業、フライス盤、コイル巻き、小さい電機子巻き 小さい力で駆動する機械、2.5㎞/hでの平坦な場所での歩き | 30 | 29 |
| 2中程度代謝率 | 継続的な手・腕の作業(釘打ち、盛土) 腕・脚の作業(トラックのオフロード運転、トラクター・建設車両) 腕と胴体の作業(空気圧ハンマーでの作業、トラクター組立て、漆喰塗、中くらいの重さの材料を断続的に持つ作業、草むしり、除草、果物・野菜の収穫) 軽量な荷車・手押し車を押したり引いたりする 2.5km/h~5.5km/hでの平坦な場所での歩き、鍛造 | 28 | 26 |
| 3高代謝率 | 強度の腕・胴体の作業、重量物の運搬、ショベル作業、ハンマー作業、のこぎり作業 硬い木へのかんな掛け・のみ作業、草刈り、掘る 5.5km/h~7km/hでの平坦な場所での歩き、鋳物を掘る、コンクリートブロックを積む 重量物の荷車・手押し車を押したり引いたりする | 26 | 23 |
| 4極高代謝率 | 最大速度の速さでのとても激しい活動、斧を振るう、階段を昇る 激しくシャベルを使ったり掘ったりする、平坦な場所を走る、7km/h以上で平坦な場所を歩く | 25 | 20 |
なお、労働者は、作業中に様々な衣服を着て作業を行っています。WBGT値は、労働者が作業中に着る衣服の組合せにより補正を行います。
WBGT値の衣服による補正
| 組合せ | WBGT値に加えるべき着衣補正値(℃-WBGT) | 備考 |
| 作業服 | 0 | 織物製作業服で基準となる組合せ着衣 |
| つなぎ服 | 0 | 表面加工された綿を含む織物製 |
| 単層のポリオレフィン不織布製つなぎ服 | 2 | ポリエチレンから特殊な方法で製造される布地 |
| 単層のSMS製不織布製のつなぎ服 | 0 | SMSはポリプロピレンから不織布を製造する汎用的手法 |
| 織物の衣服を二重に着用 | 3 | 通常、作業服の上につなぎ服を着た状態 |
| つなぎ服の上に長袖ロング丈の不透湿性エプロンを着用 | 4 | 巻付型エプロンの形状は化学薬剤の漏れから身体前面・側面を保護するように設計 |
| フードなしの単層の不透湿つなぎ服 | 10 | 実際の効果は環境湿度に影響され、多くの場合、影響はもっと小さい |
| フードつき単層の不透湿つなぎ服 | 11 | 実際の効果は環境湿度に影響され、多くの場合、影響はもっと小さい |
| 服の上に着たフードなし不透湿性のつなぎ服 | 12 | |
| フード | +1 | 着衣組合せの種類、フードの素材を問わず、フード付きの着衣を着用する場合、フードなしの組合せ着衣の着衣補正値に加算 |
作業時間を短縮し、十分な休憩を取らせていたか?
熱中症の防止のため、会社は、作業の休止時間・休憩時間を確保し、高温多湿作業場所での作業を連続して行う時間を短縮することが求められます。
以下のような場合は、会社の安全配慮義務違反の可能性があります。
- 炎天下で長時間連続作業
- 暑い倉庫・厨房・工場で休憩なし
- 工程優先で休憩できなかった
- 体調不良を訴えたのに作業継続
水分・塩分を補給できる環境だったか?
熱中症の発症、重篤化の防止のためには、身体を冷やすことが有効です。会社には、作業場所の近くに、冷房を備えた休憩場所又は日陰等の涼しい休憩場所を確保することが求められます。
さらに、水分と塩分の補給ができるように、高温多湿の作業場所の近くに、飲料水、スポーツドリンク、経口補水液等を備えておくことが求められます。
休憩場所や水分補給ができる設備があったとしても、実際に休憩時間・水分補給の時間が確保できていない場合は、会社に安全配慮義務違反があると考えられます。
暑熱順化に配慮していたか?
暑熱順化とは、暑さ、熱に慣れその環境に適応させることです。暑熱順化の有無は、熱中症の発症リスクに大きく影響します。上記のWBGT基準値も暑熱順化の有無で、基準値が異なります。
暑熱順化は、作業を行う労働者が暑熱順化してない状態から7日以上かけて熱へのばく露時間を徐々に長くしていきます。熱へのばく露が中断すると4日後に暑熱順化の顕著な喪失が始まり3~4週間後に完全に失われるとされています。
つまり、暑熱順化は計画的に行う必要があります。特に、梅雨から夏季になる時期に、以下のような場合は、労働者が暑熱順化していないことに注意が必要です。
暑熱順化していない場合
①気温等が急に上昇した高温多湿作業場所で作業を行う場合
②新たに当該作業を行う場合
③長時間、当該作業場所での作業から離れ、その後再び作業を行う場合
労働者の健康状態を確認していたか?
熱中症の防止のため、会社には、健康診断結果に基づく対応、日常の健康管理、労働者の健康状態・身体状況の確認が求められます。
熱中症の場合は、当日の睡眠不足、食欲不振、下痢、風邪の症状や全身倦怠感といった比較的軽微な体調変化が先行し、暑熱のばく露と重なって、急激に重症化することがあります。そのため、作業開始前の体調の確認、日常の健康管理が重要になります。
熱中症の兆候を把握できる体制があったか?
2025年6月1日から職場における熱中症対策化が義務化されました。会社は、熱中症のおそれがある労働者を早期に見つけて、迅速かつ適切に対応するために、以下が義務付けられています。
- 報告体制
- 対応手順
- 関係作業者への周知
会社が、これらの熱中症対策をしていない場合は、安全配慮義務違反と認められやすくなります。

職場における熱中症対策の義務化の詳細は、以下の記事参照
2025年6月1日施行!職場における熱中症対策の義務化
2025年6月1日から職場における熱中症対策が義務化されました。具体的にどんな対策をすればいいのか?を解説します。
熱中症の発症後に適切な対応をしたか?
職場における熱中症の対策は、熱中症を発症させないだけではなく、熱中症を発症した後に迅速かつ適切な対応を取ったかも重要です。
- 作業を直ちに中止したか?
- 涼しい場所へ移動させたか?
- 身体を冷却したか?
- 医療機関を受診させたか?
- 救急搬送を適切に判断したか?
上記のような重篤化防止措置を取ったかが、安全配慮義務として問題になる場合があります。熱中症は、作業中だけではなく、退勤後に体調が悪化するケースもあります。会社としては、そのような注意喚起や医療機関を受診させるといった対応が求められます。
熱中症による会社の責任が問題になりやすい具体例
会社への損害賠償請求で残しておきたい証拠
仕事中に熱中症になり、会社への損害賠償請求をする際には、以下のような証拠を確保しておくのが望ましいです。
- 当日の気温・湿度・WBGT
- 作業場所の写真・動画
- タイムカード・勤務表
- 業務日報
- 休憩時間が分かる資料
- 上司とのLINE・メール
- 同僚の証言
- 熱中症対策マニュアル
- 会社の報告・緊急対応手順
- 朝礼・安全ミーティングの資料
- WBGT測定記録
- 救急搬送記録
- 救急搬送記録 カルテ・診断書
熱中症で会社に請求できる損害
職場における熱中症について、会社に安全配慮義務違反がある場合に、会社にどんな損害を請求できるのでしょうか?
請求することのできる損害は、①積極損害、②逸失利益、③慰謝料です。それぞれの損害額の基準等は、交通事故の損害賠償に概ね準じて算定します。

詳しくは、交通事故のWebサイトの「損害賠償」を参照
積極損害
積極損害としては、治療関係費・通院交通費・入院雑・介護費・葬儀関係費があります。
逸失利益
休業損害・後遺障害による逸失利益・死亡による逸失利益が損害になります。
慰謝料
入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡による慰謝料です。
労災保険を受け取っていても損害賠償請求できる?
労災保険の給付を受けていても、会社に対して損害賠償請求できます。ただし、二重取りはできません。会社に請求できるのは、上記の損害の内、労災保険でカバーされない部分です。

「本人の自己管理の問題」と言われたら?
仕事中に熱中症になったにもかかわらず、会社から
- 「ちゃんと水分を取らなかった本人が悪い」
- 「寝不足だったんじゃないの?」
- 「本人が大丈夫と言った」
- 「持病のせいだ」
などと言われることがあります。
しかし、上記のような事情があったからといって、直ちに、会社の安全配慮義務違反がなくなるわけではありません。
ただし、これらの労働者側の事情は、損害賠償額の算定に当たって、過失相殺として考慮されることはあります。
熱中症で重い後遺症が残った・家族が亡くなった場合は弁護士へ
仕事中の熱中症について、会社に損害賠償を請求できるかどうかは、単に「熱中症になった」という事実だけで決まりません。
当日の気温やWBGT、作業内容、休憩や水分補給の状況、本人の体調、会社が行っていた熱中症対策、発症後の対応などを確認し、会社が必要な安全配慮をしていたかを具体的に検討する必要があります。
特に、熱中症によって重い後遺症が残った場合や、長期間仕事を休まざるを得なくなった場合、亡くなった場合には、損害額が大きくなるだけでなく、会社の責任を判断するための証拠の収集・整理も重要になります。
また、労災保険から給付を受けている場合でも、会社に安全配慮義務違反があれば、労災保険では補償されない慰謝料などについて、別途会社に損害賠償を請求できる可能性があります。
- 会社の熱中症対策に問題があったのではないか
- 体調不良を訴えたのに作業を続けさせられた
- 発症後の対応が遅く、熱中症が重篤化した
といった事情がある場合は、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
法律事務所エソラでは、仕事中の熱中症を含む労災事故について、労災申請だけでなく、会社に対する損害賠償請求についてもご相談をお受けしています。

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