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アスベストに関する最高裁判決④


厚生労働大臣が建設現場における石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが、屋外の建設作業従事者との関係において国家賠償法1条1項の適用上違法か?を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁令和3年5月17日第一小法廷判決

 アスベストにばく露し中皮腫にり患したとして、国に国家賠償を求めた事案です。最高裁は、国の責任を否定しました。また、建材メーカーの表示義務についても問題になっていますが、最高裁は、建材メーカーの表示義務は否定しています。

令和3年5月17日の他のアスベストに関する最高裁判決

国及び建材メーカーの責任を認めた最高裁判決→アスベストに関する最高裁判決

建材メーカーのアスベストに関する危険性の表示義務を否定した最高裁判決→アスベストに関する最高裁判決②

建材メーカーに対する損害賠償訴訟で立証方法が問題になった最高裁判決→アスベストに関する最高裁判決③

事案の概要

 被上告人らは、屋外の建設現場におけるアスベスト含有建材の切断、設置等の作業に屋根工として従事し、石綿粉じんにばく露したことにより、中皮腫にり患したと主張するAの承継人です。

 本件は、被上告人らが、上告人国に対し、建設作業従事者が石綿含有建材から生ずる石綿粉じんにばく露することを防止するために上告人国が労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが違法であるなどと主張して、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案です。

原審の判断

 原審は、国の責任を一部認めました。

 上告人国は、平成13年中に、屋外建設作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたというべきである。そうすると、上告人国は、平成14年1月1日には、上記の者が石綿関連疾患にり患することを防止するために、安衛法に基づく規制権限を行使して、石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として、石綿含有建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿肺、肺がん、中皮腫等の重篤な石綿関連疾患にり患する危険がある旨を示すこと等を義務付けるべきであったのであり、上告人国が、同日から平成16年9月30日までの間、上記の規制権限を行使しなかったことは、上記の者との関係において、安衛法の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、著しく不合理であり、国家賠償法1条1項の適用上違法であるというべきである。

最高裁の判断

 最高裁は、以下のとおり、国の賠償責任を否定しました。

 原審の指摘する測定結果のうち、測定結果②は平成19年に出版された書籍に記載されたものであり、測定結果⑦は平成17年に報告されたものであって、いずれも上告人国が平成13年から平成16年9月30日までの期間には認識し得なかったものである。また、上記の期間において上告人国が法令により定めていた石綿粉じん濃度の規制値は管理濃度としての2本/㎤であった。他方、前記の評価値としての0.15本/㎤は、法令上の規制値ではなく学会により勧告されたものであり、その意味は、労働者が1日8時間、週40時間程度、50年間にわたり0.15本/㎤のクリソタイルのみの石綿粉じんにばく露したときに、1,000人に1人、過剰発がんリスクが発生するというものであることからすると、これが前記危険の認識可能性の有無を検討するに当たっての考慮事情にはなるとしても、上記の数値以上の濃度の石綿粉じんに短時間ばく露することにより、直ちに上記の過剰発がんリスクが発生するというものではない。そして、測定結果①、⑤及び⑥には0.15本/㎤以上のものが相当数あるが、測定結果①及び⑤については主に石綿含有建材の切断作業をする者につきその作業をする限られた時間の個人ばく露濃度を測定したものであり、測定結果⑥については測定時間等の測定条件の詳細が明らかでないから、これらの測定結果をもって、屋外建設作業に従事する者が就業時間を通じて当該濃度の石綿粉じんにばく露していたということはできない。さらに、原審の認定した屋外建設作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果には、前記の測定結果①、②及び⑤から⑦までのほかに、測定結果③及び④があり、これらはいずれも0.15本/㎤を下回るものである。そして、以上の屋外建設作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果は、全体として屋内の作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果を大きく下回るところ、これは、屋外の作業場においては、屋内の作業場と異なり、風等により自然に換気がされ、石綿粉じん濃度が薄められるためであることがうかがわれる。したがって、原審の指摘する測定結果に0.15本/㎤を上回るものがあることをもって、上告人国が屋外建設作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたということはできない。なお、前記の諸外国における規制値である許容濃度は、平成16年時点又は現在におけるものであるから、これに基づいて平成13年から平成16年9月30日までの期間における上記危険の認識可能性の有無を検討すべきものとはいえない。

 以上によれば、上告人国において、平成13年から平成16年9月30日までの期間に、屋外建設作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたということはできない。

 したがって、厚生労働大臣が、平成14年1月1日から平成16年9月30日までの期間に、安衛法に基づく規制権限を行使して、石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として、石綿含有建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿肺、肺がん、中皮腫等の重篤な石綿関連疾患にり患する危険がある旨を示すこと等を義務付けなかったことは、屋外建設作業に従事する者との関係において、安衛法の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、著しく合理性を欠くものとはいえず、国家賠償法1条1項の適用上違法であるということはできない。


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