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退職強要によるうつ病の悪化と解雇制限


退職強要によるうつ病の悪化と解雇無効に関する裁判例を紹介します。

エターナルキャスト事件(東京地裁平成29年3月13日判決)

 休職期間満了による退職に関して、退職強要によって、うつ病が悪化したとして、労基法19条1項により退職が無効とされた判決です。

 労基法19条1項は、業務上災害によって、休職した場合の解雇制限を規定しています(労災と解雇制限参照)。本件では、うつ病の発症自体は業務上災害、つまり、労災とは認めず、その後、退職強要により、うつ病が悪化したことをもって、労基法19条1項の適用を認めました。

事案の概要

 原告と被告会社は、平成25年1月1日付けで、期限の定めのない雇用契約を締結した。原告は、被告入社後、主としてFの指導の下、Fとともに、帳簿入力、本社及び全事業所の月次推移表の作成、キャッシュフロー表作成、業者請求に基づく諸支払業務、本社社員に対する小口現金支払、外部からの入金や銀行口座残高・現金・全事業所の小口現金残高等の管理、本社所属社員の給与計算(当初は12名分)、全社員の給与の銀行宛伝送、介護サービス利用者への請求書及び領収書の作成・送付並びに入金チェック、金庫の鍵の保管・管理、諸契約書の整理・保管等を行っていたが、仕事の覚えは芳しいものではなかった。

 原告は、被告会社に入社後、Fとともに、経理業務を担当していたが、Fは平成25年6月17日から平成26年4月20日までの間、産前産後休業及び育児休業を取得した。原告は、Fが産休に入ったため、上記業務を概ね1人で担当することとなったところ、その処理に誤りが多いことから、同年7月頃からは、研修室長兼総務担当であったJやDらが原告の経理業務を補助したり確認したりするようになった。さらに、原告は、この頃から、勤務中に過呼吸状態になることや精神状態が不安定になることがあり、応接室で横になって休憩することもあった。

 原告は、平成25年秋頃から平成26年3月にかけて、Jらから従前の経理業務のほかに、銀行とのファクタリング契約の更新手続、ガソリンプリペイドカードに係る経理処理方法の変更、事業所別の月別損益計算書に係る水道光熱費等の処理方法の変更(現金主義から発生主義への変更)、各事業所の小口現金実査表のチェック及び忘年会交通費等の一覧表作成、本社従業員全員分の給与計算業務(従前の12名分からエリアマネージャー等12名を加えた24名分)、社会保険労務士への給与データ送付、各事業所の過去2年間の月別水道費の一覧表作成、不要となった本社経理資料の整理及びC事業所内書庫への運搬、消費税変更に伴う賃借物件の賃料増額明細の作成、事業所におけるヘルパー補助等を指示され、これを行った。
 しかし、原告の経理業務には、処理の誤りなどが多く、Jがこれについて注意指導しても改められず、同様の誤りを繰り返していた。

 被告会社は、平成26年5月初め頃、原告を経理業務の主担当から外し、これを同年4月21日に育休から復帰したFと経理業務の経験がある派遣社員のLに行わせ、原告については、経理業務の補助と電話対応業務等を行わせることとした上、同年5月8日、原告に対し、経理業務に使用するパソコンが設置されている席から他の席への移動を命じた。

 被告Bは、平成26年5月21日、原告に対し、「もう経理の仕事はない。自分で何ができるか考えろ。」などと述べた。このような状況の下、原告は、同月26日以降、出勤をせず、同年6月3日、東京都産業労働局にあっせんの申立てをしたが、被告会社は、同月9日、あっせん辞退の連絡をした。

 原告は、平成26年8月27日、メンタルクリニックのG医師から、病名「うつ病」、同年1月頃より不安、めまい、ふるえ、過呼吸、職場の対人関係の葛藤等があり、同月8日に同院を初診、精神症状が改善しないため、同年8月27日より向後1か月間の自宅療養と外来通院治療を必要とするとの診断を受けた。
 被告会社は、同月28日、原告から上記診断書の提出受けたことから、同人に対し、就業規則に基づき、同月27日から同年11月26日までの間の休職辞令を発令した。
 被告会社は、原告が本件休職期間満了までに復職できなかったことから、就業規則に基づき、平成26年11月26日をもって当然退職となったと主張している。

裁判所の判断

 裁判所は、 違法な退職強要行為より、うつ病を悪化させ、職務に従事することができなくなったと判断しました。その上で、休職期間満了による当然退職は、認められないと判断しました。

 原告は、被告会社において、主として経理業務を行っていたH及びFが、相次いで退職ないし産休に入ることとなり、その経歴や資格を見込まれ、経理業務の責任者的立場に立つ者と期待されて入社したこと、ところが、原告は、仕事の覚えが芳しくないばかりか経理処理に誤りが多く、Jらを補助に付けたものの、改善が見られなかったこと、その上、入社後間もなくして、勤務中に過呼吸状態になることや精神状態が不安定になることがあるなど体調も優れなかったこと、その後、担当する業務が除々に増えた上、年末年始の休業期間中に溜まった業務の処理に窮して、更に体調を崩し、平成26年1月頃にはうつ病を発症したこと、もっとも、この当時は病状も軽く勤務自体は可能であったが、以前にも増して、経理処理の過誤を発生させ、始末書を提出するような状態であったこと、このような状況に業を煮やした被告会社は、原告を経理業務の主担当から外し、育休から復帰したFと経理業務の経験がある派遣社員のLにこれを行わせるようにしたことが認められる。
 上記によれば、被告Bないしその意を受けたD及びEが、原告を経理業務の主担当から外したことは、原告を退職に追い込もうとするなどの不当な目的によるものとは認め難く、業務上の必要性に基づくものと認められ、原告に通常甘受し難い不利益を与えるものとも認められないから、不当ないし違法ということはできない。被告Bが、原告に対し、経理の仕事はないとか、自分で何ができるか考えろなどと述べたことは、被用者に対する配慮に欠ける面はあるものの、退職を強要するものとまではいえず、直ちに違法不当ということはできない。

 原告は、経理業務の主担当から外されたことに納得せず、東京都産業労働局にあっせんの申立てをしたり、弁護士に被告会社との交渉を委任したこと、これを受けて、被告会社は、原告に経理業務の一部を割り当てることとしたものの、被告Bは、原告の上記対応に腹を立て、平成26年6月16日、原告に対し、長時間にわたり、罵詈雑言を浴びせたり、ペットボトルを壁に投げつけるなどして、原告を威嚇したこと、被告Bの意を受けたEは、上記被告Bの言動により萎縮している原告に対し、今後、仕事上のミスをした場合には辞職する旨の誓約書の作成を強要したことが認められる。原告が経理業務の主担当から外されたことに不満を持ち、あっせんの申立てをしたり、弁護士に交渉を委任すること自体は何ら不当ではなく、被告会社が原告を経理業務の主担当から外した経緯等を踏まえても、上記被告BやEによる本件退職強要行為が正当化される余地はなく、その態様の悪質性からしても違法というほかない。

 被告会社は、平成26年6月17日以降、原告に対し、預金口座の残高確認、アルバイトの雇用契約書の作成、郵便物の宛名書き、電話番等の簡易な業務を担当させていたこと、ところが、同年8月12日、専門的な知識や経験を要する本件レポートを短期間に作成するよう命じた上、その出来が芳しくなかったことに藉口して、D及びEが原告に経理業務等からの配転に同意するよう責め立てたこと、更に答えに窮した原告が発した清掃業務との発言を取り上げて、雇用条件を正社員からパート社員に変更した上で、事業所において清掃スタッフとして勤務することに同意するよう言葉巧みに迫り、これに同意できない場合には辞職するほかないかのように仕向けたことが認められる。
 上記によれば、被告会社が原告に対し、C事業所において清掃スタッフとして勤務することを命ずる旨の本件配転命令やこれに伴い原告の雇用条件を正社員からパート社員に変更する旨の本件雇用条件変更命令を発令したと認めることはできないものの、D及びEは、本件退職強要行為やその後の処遇により萎縮する原告に対し、上記配転命令発令の可能性に言及しつつ、辞職を迫ったものであり、その態様等に照らして、本件退職強要行為を正当化することはできず、違法と認められる。

 上記によれば、平成26年1月頃発症したうつ病自体に業務起因性が認められるか否かは判然としないものの、原告は、その後も勤務自体は可能であったところ、被告B、D及びEによる違法な本件退職強要行為より、うつ病を悪化させ、職務に従事することができなくなったものと認められる。
 そうすると、原告は、業務上の事由による傷病により就業できなくなったものであり、就業規則40条(1)「業務外の傷病」には当たらない上、労働基準法19条1項の趣旨に照らすと、休職期間満了に伴う当然退職扱いは許されない。


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