労災事故が発生し、会社に損害賠償を請求する場合の遅延損害金を取上げます。
労災の損害賠償と遅延損害金の請求
労働災害の発生、業務上疾病(過労死・過労自殺を含む。)の発症に使用者の過失がある場合、被災労働者は、使用者に対して、不法行為又は安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をすることができます。
労働者が、使用者に対して損害賠償請求を行う場合、損害賠償金とともに、遅延損害金についても使用者に請求することができます。
不法行為の場合の遅延損害金は5%
遅延損害金の利率は、法定利率です。不法行為構成の場合は、民法所定の法定利率の5%です。
安全配慮義務違反の場合の商事利率の適用は?
安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の基礎となる安全配慮義務は、労働契約に付随する義務です。使用者が会社や商人の場合、労働契約は商行為性があると解されていて、賃金請求の遅延損害金は商事利率の6%で計算します。
そうすると、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の遅延損害金の利率も商事法定利率の6%なのではないか?と疑問が生じます。しかし、裁判実務では、民法所定の5%で計算されます。
名古屋地裁平成21年7月7日判決
安全配慮義務違反に基づく損害賠償の遅延損害金の利率について判示している裁判例です。結論としは、民法所定の5%という判断です。裁判所に、ぐうの音もでない指摘をされてしまっています。
直接の根拠は、雇用契約が商行為であっても、安全配慮義務の不履行による損害賠償請求権が雇用契約上の債務ではないことです。その上で、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効の期間を民法の10年とする均衡上、遅延損害金の利率だけ商事利率を適用できないと述べています。
この指摘は、傍論のような気もしますが、要は、消滅時効は民法・遅延損害金の利率は商法と、いいとこどりをするなということで、ぐうの音もでませんね。
不法行為と債務不履行では起算日が異なる
遅延損害金に関しては、不法行為構成も債務不履行構成も利率は同じ民法所定の5%です。違いは、起算日で、不法行為構成の場合は、不法行為の日から遅延損害金が発生するのに対し、債務不履行構成の場合は、請求を受けた日が起算日になります。
民法の改正
民法の債権法改正に伴い、法定利率は3%になります(民法404条2項、ゆるやかな変動制)。そして、商事法定利率を6%とする商法の規定が削除されます。
したがって、法定利率は、民法の法定利率に一本化され、この問題は、改正法の下では、生じないことになります。
※詳しくは、民法改正と交通事故の損害賠償参照