労働者が新規採用又は転勤によって、会社に赴任する途上の災害は労災と認められるのでしょうか?
赴任途上の災害を労災と認定することの問題
労働者の赴任は、新たに事業主に雇用されることを前提に行われます。赴任を事業主の支配下にあるとするのには、以下のような問題点が指摘されています。
①赴任が労働関係に入る前に行われることがある
労働者の赴任が労働関係に入る前に行われた場合、赴任途上の災害は、業務上外を論じるまでもなく、労災の対象ではありません。
しかし、同一企業内の転勤の場合は、赴任は赴任先の事業主との間の労働関係のもとで行われていると認められる場合があります。新たに勤務することになった事業主との間で実体的な労働関係に入る前に、当該事業場の所属する企業において赴任を命じるなど、赴任前に赴任先事業主との労働関係が認められる場合です。
②具体的な手段等が労働者の裁量に任されている
赴任のための旅行の手段、旅行の日程などは、労働者個人の裁量・選択に委ねられています。したがって、事業主が介在することは少ないと考えられます。
赴任途上における業務上災害等の取扱いについて
以上の問題点を踏まえて、「赴任途上における業務上災害等の取扱いについて」(平成3年2月1日基発75号)の通達により、業務遂行性の判断に関する認定基準が定められています。
赴任途上の災害の要件
通達は、以下の4つの要件をすべて満たす場合、赴任途上災害とするとしています。
赴任の範囲
事業主は労働者から労働の提供を期待して赴任を行わせます。赴任が事業主の期待する労働の提供に不可欠な条件となる程度であることが必要だと解されます。そのため、住居地の移転を伴うことが業務と同様程度のものとして評価しうるものである必要があると解されています。
赴任の拘束性
赴任の日時・方法等の具体的な特定は、業務としての支配性を持つための重要な判断要素であると解されます。この観点から事業主が赴任を業務として認識するためには、旅費の支給も重要な判断要素と位置付けられています。