労災保険の社会復帰促進等事業に関する最高裁判決を紹介します。
最高裁平成15年9月4日判決
現在の労災保険の社会復帰促進等事業の前身である労働福祉事業としての労災就学援護費の支給・不支給決定を、行政訴訟(取消訴訟)で争うことができるか?が問題になった事案です。
事案の概要
労働者災害補償保険法(平成11年法律第160号による改正前のもの)に基づく遺族補償年金の受給権者である上告人が、被上告人に対し、外国の大学に進学した子の学資に係る労災就学援護費の支給申請をしたところ、被上告人から、同大学が労災就学援護費の支給対象となる学校教育法一条所定の学校に当たらないとして、労災就学援護費を支給しない旨の決定を受けたため、その取消しを求めた。
原審の判断
原審は、抗告訴訟の対象となる行政処分に該当せず、本件訴えは不適法であると判断しました。
最高裁の判断
最高裁は、抗告訴訟の対象となる、つまり、行政訴訟で争うことができると判断しました。
労災保険法23条1項2号は、政府は、労働福祉事業として、遺族の就学の援護等、被災労働者及びその遺族の援護を図るために必要な事業を行うことができると規定し、同条2項は、労働福祉事業の実施に関して必要な基準は労働省令で定めると規定している。これを受けて、労働省令である労働者災害補償保険法施行規則(平成12年労働省令第2号による改正前のもの)1条3項は、労災就学援護費の支給に関する事務は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長が行うと規定している。
「労災就学援護費の支給について」と題する労働省労働基準局長通達(昭和45年10月27日基発第774号)は、労災就学援護費は法23条の労働福祉事業として設けられたものであることを明らかにした上、その別添「労災就学等援護費支給要綱」において、労災就学援護費の支給対象者、支給額、支給期間、欠格事由、支給手続等を定めており、所定の要件を具備する者に対し、所定額の労災就学援護費を支給すること、労災就学援護費の支給を受けようとする者は、労災就学等援護費支給申請書を業務災害に係る事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に提出しなければならず、同署長は、同申請書を受け取ったときは、支給、不支給等を決定し、その旨を申請者に通知しなければならないこととされている。
労災就学援護費に関する制度の仕組みにかんがみれば、法は、労働者が業務災害等を被った場合に、政府が、法第三章の規定に基づいて行う保険給付を補完するために、労働福祉事業として、保険給付と同様の手続により、被災労働者又はその遺族に対して労災就学援護費を支給することができる旨を規定しているものと解するのが相当である。そして、被災労働者又はその遺族は、上記のとおり、所定の支給要件を具備するときは所定額の労災就学援護費の支給を受けることができるという抽象的な地位を与えられているが、具体的に支給を受けるためには、労働基準監督署長に申請し、所定の支給要件を具備していることの確認を受けなければならず、労働基準監督署長の支給決定によって初めて具体的な労災就学援護費の支給請求権を取得するものといわなければならない。
労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり、被災労働者又はその遺族の上記権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものと解するのが相当である。