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治療機会の喪失に関する最高裁判決(労災の判例)


治療機会の喪失について判断した最高裁判決を紹介します(治療機会の喪失については、労災の認定と治療機会の喪失参照)。

地公災東京支部長事件(最高裁平成8年1月23日判決)

 地方公務員の労災である地公災の事案です。労作型の狭心症を発症した当日の午後及び翌日に、引き続き公務に従事せざるを得なかった高等学校教諭の心筋こうそくによる死亡が、公務災害なのか?が争われました。

事案の概要

 昭和55年4月16日午前9時ころ、勤務先において、労作型の不安定狭心症を発症し、救急車で病院に運ばれたものであるところ、被害者はその際、入院のうえ適切な治療と安静を必要とし、不用意な運動負荷をかけると心筋こうそくに進行する危険の高い状況にあったにもかかわらず、その日は病院から勤務先に戻り公務に従事せざるを得ず、更に翌17日も、午前中に病院で検査を受けた後に公務に従事せざるを得なかった。被害者は17日午後4時35分に心筋こうそくにより死亡した。

原審の判断

 原審は、以下のとおり、公務災害と認定しました。

 公務上死亡とは、公務と死亡との間に相当因果関係が存すること、換言すれば死亡が公務遂行に起因することを意味し、また、これをもって足りるというべきであって、必ずしも死亡が公務遂行を唯一の原因ないし相対的に有力な原因とする必要はなく、当該公務員の素因や基礎疾病が原因となって死亡した場合であっても、公務の遂行が公務員にとって精神的・肉体的に過重負荷となり、基礎疾病を自然的経過を超えて急激に憎悪させて死亡の時期を早めるなど基礎疾病と共働原因となって死亡の結果を発生させたと認められる場合には、公務上の死亡であると解するのが相当である。

 労作型の不安定狭心症を発症したため、入院のうえ、適切な治療と安静を必要とし、不用意な運動負荷をかけると心筋梗塞に進行する危険の高い状況にあったにもかかわらず、帰校後、あえて身体検査等の公務に従事せざるを得なかったものであり、翌日も予算請求の締切が迫っていたこと等の事情から病院での検査後も公務に従事せざるを得なかったこと、しかも、被害者の従事した発作後の公務はこのような身体的状況にあった被害者にとって、当日の気温が寒冷であったことも相まって、極めて過重な精神的・肉体的緊張をもたらしたものであったこと、被害者が、狭心症の発作後、入院のうえ、適切な治療を受け、安静にしておれば、心筋梗塞を発症し、死亡する可能性は極めて少なかったこと、翌17日の病院での受診までの間の症状の悪化は、狭心症の発症状後、安静にすることなく右のような公務を継続したためであることが認められ、右事実からすると、被害者の心筋梗塞とこれによる死亡は、4月16日に発症した狭心症が前記公務に伴う負荷によって自然的経過を超えて急激に憎悪し、狭心症と公務が共働原因となって発生したものというべきであるから、被害者の死亡と公務との間に相当因果関係を認めるのが相当である。

最高裁の判断

 最高裁は、次のように述べ、原審の判断を維持し、業務起因性を認め、公務災害であると認定しました。

 被害者が4月17日の午後4時35分に心筋こうそくにより死亡するに至ったのは、労作型の不安定狭心症の発作を起こしたにもかかわらず、直ちに安静を保つことが困難で、引き続き公務に従事せざるを得なかったという、公務に内在する危険が現実化したことによるものとみるのが相当である。

 被害者の死亡原因となった心筋こうそくの発症と公務との間には相当因果関係があり、被害者は公務上死亡したものというべきであるとした原審の判断は、正当として是認することができる。


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