業務上の負傷に起因する脳血管疾患・虚血性心疾患の労災認定

過労死の際に問題になる脳・心臓疾患は、業務上の災害を原因とする疾病でも、業務が原因となる職業病でもありません。そこで、業務上の負傷が原因となる脳血管疾患・虚血性心疾患の労災認定を取り上げます。

脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準(昭和62年10月26日基発620号)

 業務上負傷の後に発症したと認められる脳血管疾患及び虚血性心疾患等であって、次の①~③のすべての要件を満たすものは、労災と認定されます。

 ①負傷による損傷又は症状と発症した疾病との間に、部位又は機能的な関連が医学上認められる

 ②負傷の性質及び程度が疾病の発症原因となり得ることが、医学上認められる

 ③負傷から症状の出現までの時間的経過が、医学上妥当なものであること

取扱う疾病

 認定基準では,中枢神経及び循環器系疾患のうち,以下の疾患について定めています。

脳血管疾患

 ①脳出血

 ②くも膜下出血

 ③硬膜上出血

 ④硬膜下出血

 ⑤脳梗塞

 ⑥高血圧性脳症

虚血性心疾患

 ①一次性心停止

 ②狭心症

 ③心筋梗塞

 ④解離性大動脈瘤

 ⑤二次性循環不全

認定基準で判断する疾患

 以上の疾患のうち,上記の認定基準で判断する疾患は以下の6つの疾患です。

 ①脳出血

 ②くも膜下出血

 ③硬膜上出血

 ④硬膜下出血

 ⑤脳梗塞

 ⑥二次性循環不全

 二次性循環不全については,強度の機械的外力等により急激に循環不全が引き起こされる病態であるため,負傷直後に発症したかどうかを確認し判断して差し支えないとされています。

負傷による損傷又は症状

 切創・挫創等の開放性損傷・打撲等の非開放性損傷を含みます。

 症状には損傷が確認されない場合でも,激しい頭痛,急激な血圧上昇等の症状が認められることをいいます。

部位又は機能的な関連

 部位的な関連とは,負傷部位が頭部,頚部,顔面である場合をいいます。機能的な関連とは,神経系や血管系等の身体機能を介して発症する場合をいいます。

疾病の発症原因

 負傷に起因する脳血管疾患の多くは,頭部等への急激な外力の作用,強度の打撲による負傷が発症要因になります。神経系や血管系等の身体機能を介して発症する場合は打撲によらないことがあります。

症状の出現

 自他覚症状が明らかに認められることをいいます。通常は負傷後24時間以内に症状が出現します。

 脳出血は症状の出現までに数日経過する場合があること,脳梗塞等は数週間から数か月に及ぶ場合があり,負傷との関連について,慎重な判断が必要とされています。