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プレス加工機操作中の労災事故と安全配慮義務


プレス機械の操作中の労災事故の損害賠償請求訴訟の裁判例を紹介します。

東京地裁平成27年4月27日判決

 工場内のプレス機械で左手を挟み複数の指を切断するなどの負傷をし、後遺障害を負った労災事故の事案です。

 使用者の安全配慮義務違反が認められた判決です。なお、裁判所は、労働者の過失を認め、過失相殺を行っています。

事案の概要

 被告は、昭和42年7月25日に設立され、各種接着剤、両面テープ、表面保護フィルム及び合成樹脂等の卸販売並びに両面テープ、粘着テープ等のスリット加工及びプレス加工を業とする株式会社である。被告は、東京都江東区内に本社工場を、茨城県常総市内に関東工場を有している。

 原告は、昭和38年生まれの男性で、中学卒業後、平成24年3月22日に退職するまで約30年間にわたり被告の従業員であった。原告は、平成23年7月22日まで、被告の工場長であった。

 本社工場内に設置されたプレス機械では、自動車の車体に金属製のエンブレムを接着させるための特殊な両面テープにセパレーターと呼ばれる紙を貼り合わせて型抜きをする加工作業が行われていた。

 本件プレス機は、予め切り抜く形に刃を取り付けてある木型を型枠に固定して、この型枠をプレス部分の上部に刃を下向きに取り付け、プレス台が下から上に動くことにより、プレス加工を行うものである。本件プレス機では、正面向かって左側の供給ロールから右側に両面テープとセパレーターを重ね合わせた状態で流れ、中央でプレスしてエンブレム等の形に切り抜いている。本件プレス機は、試し抜き作業用の寸動ボタンを押すと、これを押している間だけ、プレス作動がされる一方、クラッチ入ボタン(起動ボタン)を押すと、クラッチ切ボタンを押して停止させるまでプレス作動が継続する。

 本件プレス機は、株式会社Bが印刷機の中古機械を改造して製造したもので、被告に昭和63年12月に納入された。

 株式会社Bは、被告に対し、本件プレス機の安全性に問題があるとして本件プレス機の中止を要請したことはなかった。

 被告は、原告その他従業員から本件プレス機の取扱方法について聞き取りを行い、平成22年12月、貼り合わせ型抜き加工を含む作業工程を記載した標準作業手順書を作成した。この標準作業手順書には、本件プレス機の試し抜き作業に関する記載はない。なお、本件プレス機には、取扱説明書はなかった。

 関東工場において、平成23年3月17日、パート従業員が本件プレス機に類似する機械で両面テープのプレス作業をした際、プレスの微調整中に動作しているプレス機に指を挟まれ、左中指、薬指、小指の先端を骨折するという事故が発生した。B総務部長は、別件事故後、別件事故につき、左手を作業台の上において寸動ボタンを押したところ、指先がプレス機械にかかったとの報告を受けた。 被告代表者は、別件事故の発生により、本件プレス機についても安全装置がないことを認識した。

 被告は、平成23年5月末頃、本社工場の規模を縮小することとなり、加工部門の従業員3名が退職した。原告は、平成23年5月以前は、両面テープの輪切りの作業を主に担当しており、本件プレス機については、その担当者が欠勤・休業した際などに取り扱う程度であったが、同年6月以降、従業員の退職に伴い、本社工場内において、顧客のための商品につき、本件プレス機を稼働させ、貼り合わせ型抜き加工作業を行うようになった。

 原告は、平成23年7月22日午後6時20分頃、本件プレス機のプレス部分に左手を挟み、左示指及び左小指を挫滅切断し、左中指及び左環指を切断した。

 なお、本件プレス機には、本件事故当時、プレス部を覆う安全カバーや、作動中に安全カバーを開けた場合には自動で停止する装置が取り付けられていなかった。本件プレス機には、本件事故後、35万円程度の費用をかけて、安全カバー及び自動停止装置が取り付けられている。

裁判所の判断

 使用者は、労働者に対し、不法行為法上の注意義務に加えて、労働者が労務提供のため設置する場所、設備若しくは器具等を使用し、又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務、すなわち安全配慮義務を雇用契約に基づいて負担する。注意義務及び安全配慮義務の具体的内容を判断するに当たっては、労働者の安全を確保することを目的とする労働安全衛生法及びその関連法規の内容を参照することが相当である。

 事業者は、機械等による危険を防止するために必要な措置を講じなければならず(労働安全衛生法20条1号)、プレス機械については、スライド又は刃物による危険を防止するための機構を有するものを除き、当該プレス機を用いて作業を行う労働者の身体の一部が危険限界に入らないような措置を講じなければならない(労働安全衛生規則131条1項)。

 上記措置は、労働者の身体の安全を確保することを目的とするものであり、これを怠った場合には,不法行為法上の注意義務違反及び安全配慮義務違反を構成するものと解される。

 被告は、本件事故当時、本件プレス機に安全カバー及び自動停止装置を取り付けていなかったから、不法行為法上の注意義務及び安全配慮義務に違反したと認められる。

 上記のように、裁判所は、使用者の安全配慮義務違反を認めました。ただし、以下のように、被害者である原告について4割の過失割合を肯定し、過失相殺を行っています。

 本件事故は、原告が本件プレス機の寸動ボタンを右手で押し続けていながら、左手をプレス部分に差し入れるという原告自身の危険な行為にも起因するので、この点において、原告に相当程度重い過失があるといえる。

 原告は、10年近くにわたって被告の工場長であり、他の従業員の安全も管理すべき立場にあったところ、別件事故があったにもかかわらず、原告は、従業員に気を付けるように声掛けし、B総務部長などと機械の危険性について話をするにとどまり、具体的な対策を提案するなど積極的に本件プレス機に安全カバーや自動停止装置を取り付けるように取り組まなかったことからすれば、この点においても、原告にも過失が一定程度認められる。


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