労災事故が発生した際に、会社に対して損害賠償を請求する根拠となる安全配慮義務を取上げます。
労災での損害賠償請求の根拠
労災が認定されても、労災保険の給付を受けても、すべての損害を填補することはできません。そのため、労働者としては、使用者である会社に対して、損害賠償請求をしたいと考えます。
使用者である会社に対して、損害賠償請求をする場合、①不法行為に基づく損害賠償又は②労働契約の付随義務である安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求のどちらかの構成をとります。
①を不法行為構成、②を債務不履行構成と呼んでいます。それぞれに、損賠賠償の範囲や時効期間等の違いがあります。
不法行為構成と債務不履行構成の違いについては、以下の記事参照
不法行為と債務不履行(労災の損害賠償)
労災について、労働者が使用者である会社に損害賠償請求する際、①不法行為と②債務不履行の2つの構成があります。両社の違いを解説します。
ただし、不法行為の過失(注意義務)と安全配慮義務で、その内容に違いがあるわけではありません。労働者は、使用者の義務違反の内容を特定し、かつ、義務違反に該当する事実を主張・立証しなければなりません。
抽象的安全配慮義務
最高裁昭和50年2月25日判決(陸上自衛隊八戸車両整備工場事件)が、初めて安全配慮義務という用語を使用しました。その後、民間企業に関する安全配慮義務について判断をしたのが、最高裁昭和59年4月10日判決(川義事件)です。
川義事件判決は、使用者が「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務提供をする過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するように配慮する義務」としての安全配慮義務の存在を認めました。
判例を受け、労働契約法5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と安全配慮義務について規定しています。
上記判決や労働契約法5条の安全配慮義務は、使用者が一般的に負う義務であり、抽象的安全配慮義務と呼んでいます。実際に、会社に損害賠償請求をするには、個別具体的な状況に応じた具体的な義務としての安全配慮義務を主張・立証する必要があります。
というのも、労働者の職種・労務内容・労務提供場所等によって、安全配慮義務の内容は異なるからです。
具体的安全配慮義務
前述のとおり、具体的な安全配慮義務は、個別の状況に応じて様々ですが、おおむね、以下のように分類されています。
①物的・環境的危険防止義務
物理的な意味で、作業上の危険を防止する義務です。安全配慮義務の最も基本的な内容といえます。たとえば、機械を整備する、保護具を支給する等の義務がこれに当たります。
②作業内容上の危険防止義務
労働者が危険な行動をとらないよう、あらかじめ教育しておく義務、労働者が危険な行動をとった際に是正する義務です。
③作業行動上の危険防止義務
たとえば、工場や現場では複数の労働者が複数の作業をしています。他の労働者の作業内容や作業時期を認識していないと、それぞれの労働者が身勝手と思われる行動をとってしまうことがあります。
上記のように、同時に並行して作業を行う場合、互いの作業の連絡をし、調整し、統括管理により作業の連絡・調整を行う義務です。安全配慮義務の典型的な内容の一つです。
④寮・宿泊施設の管理義務
寮生活、事業場附属寄宿舎での生活、施設の宿直等の場合に、使用者が適切な対応をとるべき義務です。安全配慮義務の中では、比較的新しい内容の義務といえます。
⑤健康管理義務
労働者の健康について管理する義務で、最近、社会的に問題となっている長時間労働による過労死・過労自殺等は、この類型に該当することとなります。
法令との関係
一般的に、具体的な安全配慮義務の内容は、労基法・労働安全衛生法や同規則、通達等の明文で規定される安全措置が中心となります。裁判実務上は、これらの明文の規定よりも安全配慮義務の内容を広く解しています。
使用者側から見ると、労基法や安衛法などの明文の規定に違反していなくても、安全配慮義務違反があったとして、損害賠償責任を負う可能性があります。