労災の損害賠償の法的構成

 労災で被災した労働者が,使用者である会社に損害賠償請求をする場合,法的構成は,

  ①不法行為に基づく損害賠償請求

  ②安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく損害賠償請求

 の2つが考えれます。不法行為と債務不履行では,以下のような違いがあります。

遅延損害金の起算日

 使用者が負う損害賠償債務がいつ履行遅滞になるのか?という問題です。

 不法行為の場合は,不法行為時に遅滞に陥ります。労働者側が請求する必要もありません。一方,債務不履行は,履行の催告,つまり請求があってはじめて遅滞に陥ります。

 遅延損害金の起算日は,不法行為の方が,労働者側に有利ということがいえます。

消滅時効

 いつまで,損害賠償請求をすることができるか?という問題です。

 不法行為は,加害者を知った時から3年の消滅時効,不法行為時から20年で除斥期間が経過します。一方,債務不履行は10年で消滅時効にかかります。

 一見すると,債務不履行構成の方が労働者側に有利なように思えます。不法行為の消滅時効の起算点である加害者を知った時とは,加害者に対して請求できる時,請求できるだけの損害が発生した時ということになります。債務不履行の場合は,法的に権利を行使できる時と解されていて,権利を行使できることを知っている必要はありません。

 したがって,不法行為構成の方が,消滅時効期間が,結果的に長くなるということがありえます。なお,改正民法は,人的損害の損害賠償請求権の消滅時効を5年としています。民法が改正されると,不法行為・債務不履行で時効期間の差はなくなります。

近親者固有の慰謝料

 被害者である労働者が,労働災害で死亡した場合,慰謝料には,被害者本人の慰謝料と,近親者固有の慰謝料が存在します。

 不法行為に基づく損害賠償請求では,近親者が固有の慰謝料を請求することができます(民法711条)。一方,債務不履行の場合は,近親者固有の慰謝料は,請求できないと解されています。

 安全配慮義務は,労働契約又はそれに準じる一定の法律関係があることが前提です。遺族である近親者は,それらの法律関係の当事者ではないので,固有の慰謝料を請求できないというのが判例の立場です。