労災事故が発生した際に、会社に対して損害賠償を請求する場合、その根拠は①不法行為と②債務不履行の2つがあります。この2つに違いはあるのでしょうか?
労災の損害賠償の法的構成
労災で被災した労働者が、使用者である会社に損害賠償請求をする場合の法的構成は、以下の2つが考えれます。
会社に対する損害賠償請求の法的構成
①不法行為に基づく損害賠償請求
②安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく損害賠償請求
安全配慮義務については、以下の記事参照
安全配慮義務について(労災の損害賠償)
労災の発生について、使用者である会社に安全配慮義務違反がある場合、労働者は会社に対し損害賠償請求できます。安全配慮義務違反について解説します。
不法行為と債務不履行では、以下のような違いがあります。
遅延損害金の起算日
使用者が負う損害賠償債務がいつ履行遅滞になるのか?という問題です。
不法行為の場合は、不法行為時に遅滞に陥ります。労働者側が請求する必要もありません。一方、債務不履行は、履行の催告、つまり、労働者からの請求があってはじめて遅滞に陥ります(民法412条3項)。
したがって、遅延損害金の起算日は、不法行為の方が、労働者側に有利といえます。
消滅時効
いつまで、損害賠償請求をすることができるか?という問題です。
不法行為は、加害者を知った時から3年の消滅時効、不法行為時から20年で除斥期間が経過します。一方、債務不履行は10年で消滅時効にかかります。
一見すると、債務不履行構成の方が労働者側に有利なように思えます。不法行為の消滅時効の起算点である加害者を知った時とは、加害者に対して請求できる時、請求できるだけの損害が発生した時ということになります。債務不履行の場合は、法的に権利を行使できる時と解されていて、権利を行使できることを知っている必要はありません。
したがって、不法行為構成の方が、消滅時効期間が、結果的に長くなるということがありえます。
なお、改正民法は、人的損害の損害賠償請求権の消滅時効を5年としています(民法724条の2)。民法が改正されると、不法行為・債務不履行で時効期間の差はなくなります。
民法改正による労災の損害賠償への影響は、以下の記事参照
近親者固有の慰謝料
被害者である労働者が、労働災害で死亡した場合、請求できる慰謝料には、①被害者本人の慰謝料と、②配偶者や子どもといった近親者固有の慰謝料が存在します。
不法行為に基づく損害賠償請求では、近親者が固有の慰謝料を請求することができます(民法711条)。一方、債務不履行の場合は、近親者固有の慰謝料は、請求できないと解されています。
安全配慮義務は、労働契約又はそれに準じる一定の法律関係があることが前提です。遺族である近親者は、労働契約の当事者ではないので、固有の慰謝料を請求できないというのが判例の立場です。