労災保険の不支給決定の取消訴訟に事業主が補助参加することができるかどうかについて判断した最高裁決定を紹介します。

最高裁平成13年2月22日決定

 労災保険の不支給決定の取消訴訟は,被災労働者と国との間の訴訟です。事業主は訴訟の当事者ではありません。

 しかし,取消訴訟において,業務起因性が肯定されると,事業主に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求に影響が生じてきます。そのため,事業主としては,労災保険の不支給決定の取消訴訟に補助参加したいという意向が出てきます。

事案の概要

 本件の本案訴訟は,抗告人の工場の勤務していたAの妻である相手方が,Aの死亡は長時間労働の過労によるもので,業務起因性があるとして,労働基準監督署長に対し労災保険法に基づいて遺族補償給付等の請求をしたところ,これを支給しない旨の処分を受けたので,その取消しを求める行政訴訟である。

 抗告人は,本案訴訟においてAの死亡につき業務起因性を肯定する判断がされると,相手方から労基法に基づく災害補償又は安全配慮義務違反による損害賠償を求める訴訟を提起された場合に自己に不利益な判断がされる可能性があり,また,労働保険の保険料の徴収等に関する法律12条3項により次年度以降の保険料が増額される可能性があると主張し,労働基準監督署長に対する補助参加を申し出た。

最高裁の判断

 最高裁は,労災保険料率のメリット制が適用されている事業主が,保険料率が引き上げられるのを防止するために国に補助参加することは認めましたが,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求との関係で補助参加することは否定しました。

 労基法84条によると,労災保険法に基づいて労基法の災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合においては,使用者は補償の責を免れるものとされているから,本案訴訟において本件処分が取り消され,相手方に対して労災保険法に基づく遺族補償給付等を支給する旨の処分がされた場合には,使用者である抗告人は,労基法に基づく遺族補償給付等の支払義務を免れることとなる。そうすると,本案訴訟において被参加人となる労働基準監督署長が敗訴したとしても,抗告人が相手方から労基法に基づく災害補償請求訴訟を提起された敗訴する可能性はないから,この点に関して抗告人の補償参加の利益を肯定することはできない。また,本案訴訟における業務起因性についての判断は,判決理由中の判断であって,労災保険給付の不支給決定取消訴訟と安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求訴訟とでは,審判の対象及び内容を異にするのであるから,抗告人が本案訴訟の結果について法律上の利害関係を有するということはできない。

 徴収法12条3項によると,同項各号所定の一定規模以上の事業については,当該事業の基準日以前3年間における「業務災害に係る保険料の額に第一種調整率を乗じて得た額」に対する「業務災害に関する保険給付の額に業務災害に関する特別支給金の額を加えた額から労災保険法16条の6第1項2号に規定する遺族補償一時金及び特定疾病にかかった者に係る給付金等を減じた額」の割合が100分の85を超え又は100分の75以下となる場合には,労災保険率を一定範囲内で引き上げ又は引き下げるものとされている。徴収法12条3項各号所定の一定規模以上の事業においては,労災保険給付の不支給決定の取消判決が確定すると,行政事件訴訟法33条の定める取消判決の拘束力により労災保険給付の支給決定がされて保険給付が行われ,次々年度以降の保険料が増額される可能性があるから,当該事業の事業主は,労働基準監督署長の敗訴を防ぐことに法律上の利害関係を有し,これを補助するために労災保険給付の不支給決定の取消訴訟に参加をすることが許されると解するのが相当である。